薬局に「薬歴システム」売り込み、患者優先の視点共有カケハシ 田中雄介さん

一見遠回りに思える作業だが、背景には薬局チェーンならではの事情がある。系列店といっても、個々の薬局は独立運営のことが多い。薬剤師不足は深刻で、辞められては困るという経営側の思いもある。経営者や薬剤師ら「意思決定に関わるステークホルダー(利害関係者)が多い」(田中さん)のが特徴だ。

安さなら他社で…

もちろん顧客が他社に流れるのを防ぐ狙いもある。患者の薬歴を残す機能だけなら、他社にも似たような仕組みがある。「安いなら他社のシステムでいい」と、最終的に競合の成約を手助けすることにもなりかねないからだ。

さらに推進役への働きかけだけでなく最後の一押しとして田中さん自身が経営者の心に訴える。「薬剤師の仕事は何か、なぜムスビの導入に興味を持ったか」。顧客の迷いも含め「気持ちの揺れを共有し、その上で最終的にムスビの導入を決めてもらう」。

田中さんが担当し、1年ほど前にムスビを採用したヤマガタ薬局(横浜市)。管理薬剤師でもある山形光正社長は「薬局が(健康関連のどんな相談にも応じる)よろず屋だった、昔の姿に戻ろうとしている」と指摘する。

単に薬を調合するだけでなく、相談に来た患者に大衆薬を紹介したり、病院での受診を促したりする。「(災害時などに患者の症状に応じて治療の優先度を決める)トリアージ役にならないといけない」と山形社長。カケハシと同様の目線を持つ薬局は増え始めており、これまでに数百の法人で導入が決まった。

薬局は法律や制度で運営のルールが定められ、経営の自由度は限られる。そうした中で、経営効率だけではない、患者優先のサービスを目指す薬局との連携に力を入れる。「営業の難易度は確かに高い。でも面白い」と田中さんは笑顔で話す。

(諸富聡)

たなか・ゆうすけ
2008年関西学院大学文学部を卒業し、武田薬品工業に入社。MR(医薬情報担当者)として勤務する。17年にカケハシに移り、薬局の開拓や営業体制の立ち上げに従事。京都府出身。

[日経産業新聞2020年3月3日付]

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