30の経営理論を1冊で総ざらい 学者に評判の学説とは
経営に関する新しい知識は積極的に取り入れたい(写真はイメージ)=PIXTA
世界の「標準理論」として生き残ってきた約30の経営理論を総ざらいした800ページを超える大著が快走している。
早稲田大学教授の入山章栄著『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社、2019年12月)によると、経営理論の目的は「経営・ビジネスのHow(どのように)、When(どんな時に)、Why(なぜ)に応えること」。従って例えば、経営コンサルタントがよく使う、事象や概念を整理した図表はフレームワーク(枠組み)であって理論ではない。「確立されたフレームワークと、実に中途半端な理論の紹介がごちゃ混ぜに掲載されている教科書が大部分だ」との不満が、同書執筆のバネになった。世界最高レベルの経営学者の英知の結集を解説する本を目指した。
入山氏はビジネスパーソンの読者を強く意識している。経営理論には説得力、汎用性、不変という強みがあり、「思考の軸」として活用すればビジネスの重要な武器となり得るとみているためだ。中央大学の田中洋教授は「英語の原論文をじっくり読まないとアクセスできなかった経営学の基本的な文献の見晴らしを、一般の読者に明らかにした。ある理論が経営学者の間でどんな評判になっているのかを読み取れるのも大きい」と評価する。
30の理論は戦略、イノベーション(革新)、ガバナンス(企業統治)といった経営課題を射程に入れている。大半が欧米発だが、一橋大学の野中郁次郎名誉教授が生み出した、組織が知識を創造するプロセスを解明した「SECI(セキ)」モデルも含まれ、入山氏は「これからの時代こそ、野中理論が圧倒的に必要」と推奨する。米国など4カ国の戦争を題材に、状況に応じて戦略を実践する「知略」について論じた近刊『知略の本質』(野中氏ら4人の共著、日本経済新聞出版社、19年11月)でも、分析の核をなすのはSECIモデル。野中理論のしぶとさを表している。
経営理論は有力な道具ではあるが、もちろん万能ではない。入山氏は、経営理論を思考の軸にするよう勧める一方で最終章では、刻々と変わる経営環境のもとで経営理論に当たれば簡単に正解を導き出せるわけではないと注意を喚起し、「経営理論そのものを信じ込んではいけない」と締めくくっている。
(編集委員 前田裕之)