さくさく柔らか、かむほどに味深く 下関のクジラ料理
商業捕鯨が昨年、31年ぶりに再開され、山口県下関市は沖合操業の捕鯨母船の拠点として注目を集めた。かつて南極海での商業捕鯨の基地として栄えた下関は、今でもスーパーにクジラ肉が並び、カツやベーコンといったクジラ料理を出す飲食店も多い。
下関駅から徒歩7分。下関くじら館は市内で唯一のクジラ料理専門店だ。外壁には、クジラの各部位の名称を示す解体図がかかっている。店長の小島純子さんが「うちは鯨食文化の発信基地」と自負するように、鯨食文化に関心を持つ客が海外からも訪れる。
メニューにはオバイケ(尾びれさらし)、百ひろ(小腸)、ふくろ(胃袋)、さえずり(舌)、まめわた(腎臓)など多くの部位が並ぶ。いろいろと味わうには、刺し身の三種盛(尾の身=尾の付け根の肉、鹿の子=顎の肉、ほほ肉)や珍味盛がお薦めだ。尾の身は脂が乗った馬刺しのような食感で、口の中でとろけていくのを楽しめる。
定番の竜田揚げのほか、串カツやステーキも外せない。クジラの肉は固いという思い込みに反し、さくさくと柔らかい。ステーキには「牛肉に負けないようにと家族で開発した」(小島さん)特製のタレがかかり、これがクジラかと驚くほど食べやすい。
くじら館の近くには馳走家むつがある。フグを含む魚料理が主だが、最近はクジラにも力を入れている。店主の金村睦徳さんが好きな部位は胃袋。「かめばかむほど味が出てくる」という。確かにほんのりと磯の香りを感じさせる味わいがあり、常連客は「日本酒に合う」と話す。また赤身のユッケは食欲をそそり、丼にも合いそうだ。
同店が現在扱っているクジラはすべてニタリクジラ。調査捕鯨の時代は評価が低く、再開された商業捕鯨の捕獲枠の過半を占めることに懸念もあったが、まったく心配はなさそうだ。店では今後、クジラのしゃぶしゃぶやすき焼きをメニューに加えることも検討している。
漁師居酒屋あらかぶは、地元で取れた新鮮な魚料理が中心の店だが、ベーコンや竜田揚げなどクジラ料理も出す。昔、給食などでクジラを食べた世代にはなつかしい味だ。実際、店主の城下英治さんによると、「地元客でクジラを食べるのは年配の人が多い」という。
関門海峡に面し、観光スポットでもある唐戸市場。週末の人気飲食イベント「活きいき馬関街」にはクジラのすしも並ぶ。またクジラの専門店があり、スーパーなどでは売っていない希少な部位も購入できる。
1899年、ノルウェー式捕鯨砲を使う日本初の近代的捕鯨会社が山口県長門で設立され、下関には出張所が開設された。その後クジラ肉の冷蔵、加工、流通の拠点として発展し、下関市は「近代捕鯨発祥の地」と称している。第2次大戦後間もなく、食料難緩和のため南極海捕鯨が再開され、下関は1960年代頃まで捕鯨基地・クジラ加工品の生産拠点として繁栄する。70年代以降、国際的な捕鯨規制の動きが強まり、国内のクジラ消費量も激減するが、下関市は捕鯨と鯨食文化の継承に力を入れてきた。
(山口支局長 谷川健三)
[日本経済新聞夕刊2020年2月27日付]
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