クレームから逃げない 顧客対応で学んだ人間関係作り
大成建設社長 村田誉之氏(下)
大成建設が進める働き方改革。現場にもフレッシュスペースなどを設ける(イメージ図)
オフィスビルとマンションの大きな違いは、マンションは一戸一戸を購入する入居者が満足するまで責任を持つ点です。発注者のデベロッパーの検査が終わった後、入居者の内覧に立ち会います。そこで指摘があれば直し、すべてクリアするまでが仕事です。
中には満足してくれない人もいます。「屋上にプールがない」なんていう声もありました。デベロッパーも困り果てていましたね。私は「お金がかかりますよ」「着替えはどうするんですか」と説得し、最後には分かってくれた。
その方は私のことを面白がってくれ、今でも付き合いがあります。
クレームから逃げたことはありません。自分がつくったものが評価されないのは嫌じゃないですか。全てに応えるのは自分のためでもあります。
所長として最後に関わった現場は特に自分がやりたいと思ったマンションでした。積算も自分でやり、受注を獲得。内装もこだわり、システムキッチンやドアなどの建具も自分で選びました。
作業所長時代にはイタリアまで木製建具の買い付けに行った(左端が村田社長)
当時はIT(情報技術)バブルの崩壊後で社内のコスト意識が厳しい時期でした。品質の良いものを使いつつ、コストを抑えなければならなかったので、海外に自ら調達に行きました。木製建具はイタリアまで行きましたね。日本にないデザインが安く手に入るからでした。
建具は1千戸分。初めての商談なので、高値を提示されるかと身構えましたが、実際はとてもフェアでした。その日に即決し、ホテルに帰ってすぐに書類を日本に送付。相手も「よくやってくれた」と喜んでいました。見本を持ち帰りたかったのですが、たまたま品切れしている。本社のドアノブを外して「これを持って行け」と渡してくれました。誠実な仕事ぶりに感心しました。
2006年に戸建て販売子会社の大成建設ハウジングに出向しました。
副社長でしたが現場担当者では解決できない場合に私が呼ばれます。上がってくる報告は直近のやりとりだけですが、遡って調べると顧客との行き違いはその前から続いている。全て調べて、自ら出向き、最初のいきさつから謝りました。「やっと分かってくれる人がきた」と話し合いができるようになります。
建設業の社長の中で顧客対応をした数では業界随一ではないか。こうした顧客と直接やりとりをするなかで、人間関係の作り方を学びました。
あのころ……
国内の建設投資は1996年をピークに減少の一途をたどり、過当競争に陥った。90年代後半から2000年代前半にかけてゼネコンの経営破綻が相次いだ。その後、各社は合併や成長を目指し海外に乗り出すなど生き残り策を模索することになる。