胸の痛み、激しい・広範囲ならすぐ受診 肩や喉も注意
胸に痛みを感じた経験がある人は多いのではないだろうか。胸痛の原因は様々あり、なかには心筋梗塞や大動脈解離など、すぐさま治療を受けなければ命に関わるものもある。痛みに正しく対処したい。
忙しい日々が続き疲れや睡眠不足がひどくなると、胸痛を感じることがある。しばらく様子を見てもよいものから、すぐ救急車を呼んで治療を受けなければならないものもある。緊急対応が必要な胸痛は「広範囲の痛み」と「激痛」の2点がポイントとなる。
突然死の原因にもなり迅速な治療が必要となる胸痛は心筋梗塞、急性大動脈解離、肺血栓塞栓症の3つだ。帝京大学医学部(東京・板橋)循環器内科の上妻謙教授は「こうした深刻な病気による胸痛は広い範囲で痛みを感じ、ここが痛いと指し示せないケースが多いのが特徴」と話す。
心筋梗塞は、心臓の表面を覆って栄養を与えている血管である冠動脈が詰まり、心筋が壊死(えし)する病気。広く胸のあたりが締め付けられるような激しい痛みや、圧迫感を感じることが多い。左肩や喉、顎、腕などに痛みを感じることもある。上妻氏は、「こうした症状が15~30分続くようなら迷わず救急車を呼んだ方がいい」と指摘する。
冠動脈が詰まらないまでも、狭くなって血流が滞り胸痛を起こすのが狭心症。階段の上り下りなどの軽い運動をした後に数分間、胸のあたりが痛む。安静にして痛みが消える程度なら様子見もできるが、ひんぱんに繰り返すようなら心筋梗塞の前段階の不安定狭心症の可能性があり、即刻受診が必要だ。
大動脈解離も緊急対応が欠かせない。大動脈は心臓から出た血液が最初に通る人体で最も太い血管。血管の壁は内側から内膜、中膜、外膜の3層で構成されている。大動脈解離は内膜が傷つき中膜と外膜の間に血液が流れ込み裂け目が広がる。外膜が破れ大動脈が破裂したり、血管が閉塞したりして命が脅かされる。
激しい胸痛だけでなく背中を引き裂かれるような痛みが出ることが多く、解離の場所によって痛みが腹や腰にくることもある。東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市)心臓血管外科の田端実部長は「高齢者が多いが、近年は40~50代の働きざかりの男性で増えている」と話す。
特に心臓から頭に向かう部位での大動脈解離は1時間に1%ずつ致死率が高まるとされ、裂けた大動脈を人工血管に置き換える手術が必要。「躊躇(ちゅうちょ)すると手遅れになる可能性もあるので症状があれば昼夜を問わず、すぐに受診を」と田端氏は注意を促す。
肺血栓塞栓症は血栓が肺の動脈に詰まる病気。胸痛と共に息苦しさがあるのが特徴で、下肢が痛む場合もある。長時間体を動かさずにいるときに起こりやすい。
これらはいずれも血管が詰まったり弱くなったりする病気で「高血圧の人が多い」(田端氏)。予防には血管に負担がかかる高血圧や脂質異常症などの持病を治療する。血圧を急上昇させる気温の変化にも注意したい。こうした疾患の増加は食生活の欧米化など生活習慣の変化が原因の一つ。喫煙や肥満、運動不足、ストレス、睡眠不足はリスクを高める。睡眠時無呼吸症候群も治療しておきたい。
一方、心臓や肺の血管障害以外の原因で起こる胸痛も多い。緊張性気胸や逆流性食道炎、肋間(ろっかん)神経痛、帯状疱疹(ほうしん)などだ。きゅっとした痛みで、場所を示せるのが特徴だ。
多くは救急車を呼ぶ必要はないが、早く医療機関を受診する必要がある。逆流性食道炎などは加齢とともに増える。「逆流性食道炎と思っていたら狭心症を併発していたこともあるので、主治医と相談を」と上妻氏は助言する。
(ライター 武田京子)
[NIKKEIプラス1 2020年2月15日付]
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