動くベッド、9分でZzz… スリープテックを試した
「眠りの質」を高める最新技術を活用した商品やサービスが相次ぎ登場している。「スリープテック」などと呼ばれる技術で、センサーと連動するベッドや特殊な音を出すヘッドバンドを快眠につなげる。記者も試してみた。
1月某日、記者は「眠りをデザインする」がテーマのホテル「レム東京京橋」(東京・中央)の1日1室限定ルームに宿泊した。目玉は宿泊者一人ひとりの眠り方に対応したパラマウントベッドの新型ベッドだ。マットレスの下のセンサーが心拍数や呼吸数、体の動きを検知し、ベッドの方が寝やすいように人間の姿勢を変えてくれる。
購入すればセンサーなど一式47万3000円(希望小売価格)。ベッドは専用アプリを入れたスマホを借りて操作する。起床時には睡眠の質を100点満点で採点する。
まずは「入眠」。上体を10度起こした状態になる。「腹部臓器などによる肺の圧迫が軽減され、呼吸が楽になってリラックスする」(同社睡眠研究所の椎野俊秀主幹研究員)。病院患者にも採用する「ファウラー位」を参考にした姿勢だそうだ。睡眠に詳しい古賀良彦杏林大学名誉教授の監修による20~40代の男女8人の実験で検証した。
上半身を起こした状態で眠れるか不安だったが、後で記録を見ると9分で寝入っていた。本来は熟睡を検知してから寝返りしやすいようベッドは10分かけて水平になるが、うとうとしながら角度が変わるのに気がついた。記者の動きが少なかったので熟睡状態と判断されたようだ。椎野さんによれば「目を覚ますとすぐに動きを止めるので睡眠全体への影響はほとんどない」という。確かに記者は気づかないうちに再び眠っていた。
起床時には指定した時間の少し前から眠りが浅くなるタイミングを捉え、自動的に上体が起き上がって自然な目覚めを促す。二度寝しにくい体勢なので目覚まし時計より起きる踏ん切りがついた。睡眠スコアを確認すると総合84点で「よい睡眠です」とある。確かに「よく寝た」感覚だ。
日本人の1日平均睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)が昨年まとめた調査で7時間22分と加盟国30カ国中最低。総務省の2016年「社会生活基本調査」では15歳以上で7時間37分と1976年の調査開始から減少傾向が続く。早稲田大学名誉教授ですなおクリニック(さいたま市)院長の内田直さんは「ITの発達で情報量が加速度的に増え、睡眠時間を削り処理するようになった」とみる。
特殊な電子音を出し、深い眠りにつなげるというのがフィリップスの「スマートスリープ ディープスリープ ヘッドバンド」(実売約4万7000円)。耳の後ろに貼るセンサーが、深い眠りで生じる振幅のゆったりとした脳波「徐波」を検知すると500~2000ヘルツの微弱な音を発し、徐波の振幅を強めるという。
50代以上は徐波の衰えで効果が出ない場合もあるという。54歳の記者が自宅で試すと、0.5秒の音を1秒おきに11分間繰り返された記録があった。
翌朝、バンドに充電し、スマホのアプリを起動すると、無線で前の晩のデータがスマホに転送され、睡眠状態や睡眠スコアが分かる。5時間睡眠で82点。音が発生しない場合を試した64点を上回った。
記者はベッドやヘッドバンドを使うと「寝切った」という満足感はあったが、効果には個人差もあるだろう。高額な商品が多いので、買うのは生活習慣の見直しでどれだけ改善するか試してからでも遅くはなさそうだ。
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3D計測、最適な寝具選び
最新の3次元(3D)計測技術を寝具選びに活用する動きもある。エアウィーヴ(東京・中央)は全身120万カ所を赤外線で3D計測し、最適なマットやマットレスの組み合わせをアドバイスしてくれる。西川グループは猫背など来店者の特徴をつかんで既存商品から最適な寝具を薦めている。
記者はエアウィーブ銀座コア店(東京・中央)を訪れた。お薦めのマットレスは肩、腰、脚の3カ所別々にソフトとハードの2種類の硬さを選べる。記者はお尻が出っ張り気味で脚が太めだったので、腰と脚は沈まないように硬め。肩は横向き寝が多いと伝えた結果、横を向いたときに体の軸がまっすぐになるよう軟らかめがいいという。
(堀聡)
[NIKKEIプラス1 2020年2月8日付]
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