広報部に初めて配属されたのは1985年。ある先輩に勧められた3冊を、今も手元に置いています。

『アメリカの心』は米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された意見広告集の翻訳版です。75本のメッセージが収容されていますが、その一本一本が実に奥深い。広報マンにとどまらず、あらゆるビジネスマンにとって生き方の羅針盤になりうる示唆と教訓に満ちています。

2冊目が『危機管理のノウハウ』。佐々の功績は、欧米流のクライシス・マネジメントを日本に紹介し広めたことです。自社を徹底して客観視する危機管理はなにも企業トップだけの役割ではない。部下を率いる立場にある、すべてのリーダーの職責でしょう。

三和銀行は財閥の後ろ盾なしに90年代初め、利益で邦銀首位に駆け上がった異色の銀行だ。しかし、世紀をまたいだ金融危機の荒波に翻弄されていく。

当時私は、問題債権対応の責任者に指名されました。3冊目、そして自分が座右の書としていたのが、かの大戦の敗因を理論分析した『失敗の本質~日本軍の組織論的研究』。にもかかわらず、同書で野中郁次郎らが糾弾する事態が、目の前で起きていました。

指揮系統の混乱、過去の成功体験への拘泥、楽観的にすぎる状況分析……。最終的に取引先や関係者に多くの迷惑をかけてしまいました。今でも忸怩(じくじ)たる思いは消えません。

いま再び三菱UFJは日本のトップバンクとしての評価を国内外で得ています。だからこそ、重い教訓に基づく銀行としてのリスク管理の要諦を次代の経営に引き継ぐ。私に残された最大の使命だと心に刻んでいます。

(聞き手は編集委員 佐藤大和)

[日本経済新聞朝刊2020年2月1日付]

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