南房総のココロ踊るフードエリア イオンモールの挑戦
イオンモールは2019年11月、「イオンモール富津」(千葉県富津市)で専門店による食物販エリアを新設し、「しおかぜマート」として開業した。郊外型の大型商業施設の先駆けだったイオンモール富津だが、競合の登場で役割の見直しを迫られた。上質な食材を取りそろえるとともに、日々使いにもこだわることで客層を広げ、建物全体の活性化につなげる。
マートを設置したのがイオンモール富津1階で、以前はドラッグストアがあった場所をリニューアルした。コンセプトは「南房総のココロ踊るフードエリア」。海に面した富津市となじみ深い「しおかぜ」という名前を付けた。
入り口のマート名には丸みを帯びた字体を使い、フロアも木目調の板材にして温かみを出した。マートの通路は広く、ゆったりとしたレイアウトが特徴だ。イオンモール富津の岩浜真也ゼネラルマネージャーは「清潔感を重視し、ほっとできる環境にしたかった」と語る。
広さ約860平方メートルのマートには5つの専門店が入る。地元富津港から水揚げされた新鮮な魚を中心に扱う鮮魚店「魚の山金」と、飛騨牛などの和牛も取りそろえる「ジャンプ」、価格と品質の両面からこだわった野菜や果物を扱う「大東青果」の生鮮食品3店のほか2つの総菜店がある。例えば、刺し身では1千円を超えるものも多く並ぶ。
いずれも百貨店でならぶ様な上質な食材が置かれている。近隣の店舗との差別化をねらった。「ここの食材を見てその日のメインを考える」。富津市内に住む女性(62)は週3回はマートで買い物をしている。マートができたことでイオンモール富津自体への来店頻度も増えたと話す。
イオンモール富津は1993年に開業した。イオン全体でも3番目に古いモールだ。当初は千葉県内でも最大規模の商業施設として房総半島全域から集客してきた。だが年月と共に競合店が増え、14年には木更津市により大型の「イオンモール木更津」もできた。
古くなった富津の役割をもう一度見つめ直す必要に迫られた。「(週末に来る)『サンデーストア』ではなく、しっかりと地元の顧客に頻度よく来てほしかった」(中根健千葉事業部長)。そこで生鮮マルシェに着目し、上質な食材を多く取りそろえた専門店により、新たな集客とショッピングセンター(SC)としての差異化を目指した。
開業から3カ月。マートはイオンモール富津全体の面積の5%を占めるにすぎないが、様々な波及効果が広がっている。まずマート自体の集客は好調で各月とも計画値を上回っている。さらに新鮮な食材を求めて午前中からイオンモール富津への来客が増えた。
午前から来店客が増えたためフードコートで食事をしたり、SC内のフィットネスクラブに入会する例も増えたという。岩浜ゼネラルマネージャーは「マートにより他の専門店にもいい流れが生まれた」と喜ぶ。
イオンモールは郊外にSCを出店し続けることで成長してきた。いまでは飽和感も強まる中でSCは新たな役割を見いだす必要性も出てきた。マートは地元重視にカジを切り、SCとしての魅力を再発信するイオンモール富津の力になりつつある。
(古川慶一)
[日経MJ 2020年1月29日付]
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