社長のカジダンへの道 自ら動いて、育休取りやすく
ノバルティスファーマ社長 綱場一成氏
ノバルティスは医療用医薬品を開発する世界的規模の製薬企業で、従業員数は約10万9千人に上る。私は日本法人の社長として、「革新的な医薬品は革新的な人材によって提供され、革新的な人材は革新的な職場環境と制度に支えられる」との信念から職場作りに取り組んできた。
社員が日中に活力を回復するために短時間の昼寝ができる「パワーナップルーム」を導入したり、運動しながら業務がこなせる、机と一体型のトレッドミルを置いたりしている。革新的な制度の1つが、2020年1月から日本法人で3千人以上の全社員対象に導入した、14週間の有給の育休制度だ。
経営層自ら休みを取ることで微力ながらも社会に一石を投じたい、育休を取りやすい環境をトップが率先して作りたい――。そんな思いから、昨年12月半ばから2カ月間お休みをいただいて、家事と育児に専念することにした。
この2カ月は原則ひとりで家事と長男、次男の世話をこなす。妻からの引き継ぎ書は、次男が生まれて2週間取得した前回の育児休業時よりさらに細かい。子供たちを朝、保育園に送る当番に加え、育休中は迎えも担当する。子供たちが園に持参する弁当も作る。
我が家では家事の効率性を重視し、使えるサービスは最大限利用している。ベビーシッターサービスなど私と妻のそれぞれの勤務先の福利厚生サポートをとことん活用する。出費は伴うが、必要最小限に抑えられている。
夫婦が気持ちの余裕を失うと、仕事も家庭もうまくいかなくなるものだ。余裕があれば相手を気遣う気持ちも生まれる。子供の表情は親の表情を映す鏡だ。子供たちの笑顔のためになることは固定観念にとらわれず試している。
牛乳や納豆など毎日使う食材は週1回、生協の定期宅配サービスで注文する。その都度必要なものは西友やイトーヨーカ堂などの配達サービスで自宅に届けてもらう。最近の食洗機や洗濯乾燥機はとてもよくできており、洗濯や食事の後片付けは苦にならない。
掃除は自分でこまめにするが、小さい子供が3人いると家をきれいに保てず、ハウスキーピングサービスを定期的に利用している。朝起きて散らかった部屋を見て自己嫌悪に陥るのを避けられる。
家事の外注をためらう理由として、コスト以外に「他人が自宅に入って家事や子供の世話をすることに抵抗がある」とよく聞く。不安な気持ちもわかる。我が家は海外赴任中に長男が誕生し、ベビーシッターや家事代行をどの家庭も当たり前に使っているのを見ていたのもよかったように思う。
日本が「子育て後進国」だと言われて久しい。子供は社会の宝だ。政府はもちろんのこと、企業がもっと積極的に子育てに向き合う国であってほしい。
東大経済卒。米デューク大MBA取得。総合商社を経て米イーライ・リリーで日本法人糖尿病領域事業本部長や香港、オーストラリア、ニュージーランド法人社長を歴任。2017年4月から現職。48歳。
[日本経済新聞夕刊2020年1月28日付]
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