全国に節薬バッグによる運動が広がれば、3300億円の薬剤費を減らすことができる――。この削減額を推計したのは、九州大大学院の島添隆雄・准教授(医療薬学)。12年に全国に先駆けて運動を始めた福岡市などの薬剤師会と共同でデータ分析を行っている。

島添准教授によると、12年に福岡市内の31薬局が252人から残薬を集めたところ、回収率は15.8%で、処方箋1枚あたりの平均削減額は2700円だった。前述の削減額の推計は、この額をもとに11年度に医師が全国で出した処方箋約7億7千万枚から試算した金額だ。

島添准教授は「福岡市の調査では8割ほどの残薬が再利用できた。患者自身の支払い負担が減るだけでなく、医療費の削減に貢献しているという意識も浸透している」と手応えを口にする。

一方、残薬を薬局に持ち込んでも保管状況が悪ければ廃棄せざるを得ない。薬は湿気や高温の影響を受けやすく、使用期限内であっても変質する危険性がある。日本薬剤師会の安部好弘副会長は「薬の成分が変わって体に害を与える毒性を持つこともある。開封前の薬でも劣化する可能性もある。迷ったら服用の自己判断は避け、薬剤師に相談してほしい」と呼びかけている。

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抗がん剤でも廃棄700億円超

新薬などの開発が進む抗がん剤だが、日本では使い切れない薬剤は廃棄されるのが一般的だ。慶応大の岩本隆・特任教授(経営学)は2017年6月までの1年間に販売された100種類の抗がん剤の総廃棄額を738億円に上ると試算している。

調査の対象としたのは、ガラスやプラスチックの瓶にゴム製の栓をした注射薬。薬剤の閉鎖式接続器具を用いて瓶を無菌状態に保って廃棄せず、分割使用した場合を想定した。

薬は20ミリグラムや100ミリグラムなど容量に種類があるが、投与量は患者の体格によって異なり、使い切らない場合は細菌汚染の可能性などを考慮して廃棄されるケースがほとんどだ。

米国などでは分割使用の取り組みが進んでおり、厚労省も18年に残薬を使用するための指針をまとめた。岩本氏は「抗がん剤は高額な新薬の登場が相次ぎ、今後も薬剤費の増加が見込まれる。安全に配慮した上で、分割使用を促進するさらなる対策が必要だ」と話している。

(佐藤淳一郎、金子冴月)

[日本経済新聞朝刊2020年1月20日付]

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