VRで認知症を疑似体験 幻覚におびえ、会話に傷つく

NIKKEIプラス1

認知症の人がどう見えているかをVRで体験する参加者(2019年12月、神戸市)
認知症の人がどう見えているかをVRで体験する参加者(2019年12月、神戸市)

認知症の人に偏見を持たず、自然に接したい。それには、当事者は周囲や世界がどのように見え、どんな行動をとってしまうのかを理解するのが大切だ。仮想現実(VR)映像で認知症の症状を疑似体験してみた。

昨年12月下旬。神戸市のしあわせの村で開かれた「認知症VR体験会」に参加した。認知症の人にやさしいまちづくりを目指す同市が、高齢者向け住宅を運営するシルバーウッド(千葉県浦安市)と開いた。40~70代の市民ら約30人が集まった。自身や家族の高齢化で、認知症が身近になった人たちだという。

プログラムは同社が当事者や専門医の協力を得て開発した。認知症の多様な症状のうち「距離感がつかめなくなる視空間失認」「置かれた状況が分からなくなる見当識障害」「幻視」の3つをVRの映像で疑似体験する。

「用意はいいですか。さあ、始めてください」。インストラクター役の同社の黒田麻衣子さんが、VR用のゴーグルとヘッドホンを装着した参加者を促す。目の前に広がるいくつかの映像コンテンツの中から、記者はまず「私をどうするのですか」を選ぶ。

「うわー、足がすくむ」。目前に広がるのは、自分がビルの屋上の端に立たされている映像。認知症の人は車などから降りようとする際に距離感がつかめず、こうした映像が浮かぶこともあるという。「視空間失認」の場面だ。

「右足からいきましょうか」。横にいる介護職員が“降車”を促す。「冗談じゃない。踏み出したら転落しちゃうよ」。思わず、心の中で叫んでしまう。

介護職員がにじりよってくる。「来ないでくれえ」。もともと高所恐怖症の身ということもあり、恐怖でいたたまれなくなる。わずか1分半でかなり汗をかいた。

続いて「ここはどこですか」。何の変哲もない電車内の映像だが、自分がなぜ乗っているのか、何の目的で、どこへ行こうとしているのかが分からないとしたら。この映像は「見当識障害」で陥る不安感を再現している。

大きな駅に着いたらしく、乗客がどんどん降りていく。「どうしよう」。慌てて自分も降りる。

「私はどこへ行けばいいのでしょうか」。ホームで駅員さんに訪ねる。「出口はあっち」。ひどくつっけんどんだ。駅員さんに悪気はない。こちらの精神状態が理解できないのだろう。「ああ、これは傷つくなあ」

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