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NTNの豆鞘辰哉さん

NTNの豆鞘辰哉さん

自動車や建設機械など、様々な製品を円滑に動かすのに欠かせないベアリング(軸受け)。大手メーカーのNTNで営業部門を引っ張る一人が、産業機械事業本部の豆鞘辰哉さん(38)だ。2016年の社内営業コンテストで最優秀の金賞に輝いた。信条は「事前にお客様のことを徹底的に知ること」だという。

例えば新しい企業を担当する場合、前任者から引き継ぎを受けるが、それだけでは足りない。過去の資料や対象企業の製品情報などを隅々までチェックするのが豆鞘流だ。「顧客について知らない情報があれば、それだけで同業との競争に負けることもある」

車の開発に並走

豆鞘さんにとって一番心に残っている商談は約10年前、関東の自動車部品メーカーへの営業案件だ。電動パワーステアリング用のベアリングを売り込んだ。自動車は開発期間が長く、求められる技術やコスト水準も厳しい中、開発から受注、納品までを一貫して担当。エンドユーザーの自動車メーカーに年間数億円分のベアリングを納入した。

豆鞘さんは部品会社に週3回は足を運び、多いときは週5回顔を出した。12年まで足かけ3年通い詰め、事業の立ち上げ後は、顧客から「声をかけたらすぐ来てくれる」「親身になって考えてくれた」と感謝された。担当が替わった後も、電話などでのやり取りが続いたという。

豆鞘さんがNTNに入社したのは06年。それ以前は大手の住宅メーカーで営業を担当していた。現在のように法人向けではなく、個人を相手にした新規開拓が中心だ。飛び込み営業のかたわら、住宅展示場に足を運んできた家族らに購入プランを提示して、地道に実績を上げてきた。

そんな豆鞘さんだが「NTNに転職してから2年ほどは大変だった」と振り返る。初対面の顧客に声をかけ、関係性を築いて受注につなげる個人営業は、相手の事前情報を知らないのが一般的だ。

一方、法人向けは企業同士の関わりがあり、前任者から引き継ぎを受けたうえで取引を進めることが多い。「顧客の情報は全て知っているのが当たり前。前職とのギャップに苦労した」と振り返る。

社内での動き方も前職とは違っていた。「住宅営業はサッカーに例えれば、点を取るフォワードだけを担当するようなもの」と豆鞘さん。営業マンは戸建て住宅の図面を提案し、コストを算出して注文を取れば、ほぼお役御免だ。

この点、NTNではまずチームワークが試される。受注したら終わりではなく、工場や設計部門も巻き込んで商品開発に携わる。場合によっては、経理や法務も引き込む。いわば司令塔の役割だ。「最初はどこの担当まで話をつければ大丈夫かなど、慣れないことが多かった」と話す。

16年にNTNが開いた営業TQM大会で、豆鞘さんは金賞を受けた。全国から精鋭が集まる同大会は、営業力の向上を目指して13年に始まった。各支社から選ばれた営業マンの中から、予選を勝ち抜いた6人程度が決勝に進む。

社長を含む役員たちの前で、過去の営業に関する実体験を披露する。顧客戦略や受注実績、プレゼンテーション力などが評価の対象になる。

諦めずに正面突破

豆鞘さんが発表したのは、15年前後に担当した大手電機メーカーの新規開拓案件だ。他の営業マンは誰もカバーしていなかったが、NTNの製品を先方の問い合わせフォームに入力してPR。当初は反応がなかったが、千葉県の幕張メッセの展示会に同メーカーが出展しているとの情報を聞きつけ、足を運んだ。

その場で同社の営業マンをつかまえて名刺を交換。「2日後に製品紹介に関する返事が届き、後日、プレゼンに出向くことができた」と豆鞘さん。事前の勉強だけでなく、諦めずにあの手この手を探る精神も強みのひとつだ。

前職との違いに戸惑いつつも試練を乗り越え、トップ級の営業成績を上げる。住宅営業で培った「個人技」は新規開拓に生きている。NTNで屈指の営業マンは、今日もベアリングのように顧客先を駆け回る。

(横山龍太郎)

まめさや・たつや
下関市立大学を卒業し、大手住宅メーカーに入社。2006年、NTNに中途入社。約6年間は自動車業界向けの営業を担当し、13年から産業機械事業本部に所属。
[日経産業新聞2020年1月10日付]

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