「ハラル」生活してみた 化粧品も歯ブラシも特別仕様
訪日外国人と共に街に増える「ハラル」「ムスリム・フレンドリー」の表示。日本も食での対応は進むが、実はイスラム教徒の生活全般に及ぶ考え方だ。ハラルを意識して暮らしてみた。
ハラルとはそもそも何か。ハラル認証を手掛ける宗教法人日本イスラーム文化センターのクレイシ・ハールーン事務局長は「ハラルは『合法』という意味。コーランが禁じた豚肉や酒類など以外の物を指す」という。同センターはマレーシアやアラブ首長国連邦(UAE)と同じ基準で食品や化粧品を認証し、現在は国内約130社が取得する。
日本でハラルを意識した生活をするとどうなのか。記者の化粧水にはアルコール、シャンプーにはコラーゲン。コラーゲンは魚や動物から抽出され、豚由来であることも多く注意が必要だという。
販売元に問い合わせるとコラーゲンは魚由来との回答をもらえたが、実際にハラル認証の生活用品を集めてみた。ドラッグストアなど観光地周辺の店舗で化粧品を実験的に並べている動きも出ているが、記者の生活圏では見当たらない。「ハラル」「化粧水」などでインターネット検索し、取り寄せる必要があった。
ナチュレモフィード(東京・大田)のハラル認証のシャンプー。イラン出身で最高経営責任者(CEO)のモハマッド・シャハラムさんは「故郷で『いいもの』とされる植物由来の素材で作った」。実際に使うと泡立ちにくく、洗い応えはなかったが、髪を乾かすと自然な花の匂いが漂う。人工香料に慣れた鼻にも心地よい。コンディショナーいらずと聞いて他のヘアケア用品は一切使わなかったが、髪がきしむこともなかった。
ハラル認証の化粧落としなどを扱う石田香粧(東京・台東)は通常製品と生産ラインを分ける。通常製品で原材料の植物から油を抽出するのにアルコールが使われるためだ。設備投資分が上乗せされているのか少々お高め。肝心の洗浄力は、1回だけだとアイラインが目尻に黒く残り、2、3回かけて化粧の気配がゼロになった。洗い上がりはしっとりだったが、すっきり感は物足りなかった。
見落としがちなのが歯ブラシの毛。記者が何気なく使う商品は化学繊維だったが、大手メーカーのライオンは、実店舗での扱いは少ないが1種類だけ豚毛を使っている製品があるという。イスラム圏でも、日常生活では化学繊維の歯ブラシが普及しているそうだが、祈りの前に使う携帯用として、木の棒型の歯ブラシを使って身を清める習慣があるというので試してみた。
歯磨き粉は使わず、鉛筆を削る要領で先を鋭くし、つまようじのように歯間の汚れをとるという。硬いので削りが中途半端なまま口の中に入れたが、塩っぽい味がし、唾液があふれた。唾液には洗浄作用があるというし、イスラム圏の知恵を感じる。ただ歯にはさまった汚れは気になったので、記者も化学繊維の歯ブラシを併用して乗り切った。
人口の約90%がイスラム教徒のインドネシアは法律で化粧品や医薬品にもハラル認証を義務付けた。日本政府観光局海外プロモーション部・東南アジアグループの石崎雄久マネージャーは「今後より厳格なハラル認証を求めるイスラム教徒は増える」とみる。
一方でイスラム思想研究者の飯山陽さんは「イスラム教徒のハラルの捉え方は千差万別。もてなす側はハラル認証が万能だと過信しない方がいい」と指摘する。イスラム教の解釈は信者自身に委ねられる一方、ハラル認証も機関ごとに基準を設けるためだ。
玄冶堂(東京・千代田)の体用せっけんはパッケージの認証マークに加え、豚由来の原料とアルコールが不使用なのを日本語と英語で表記する。代表取締役のモシュケリ香織さんは「成分表示だけでは不親切。イスラム教徒が知りたい情報を明記した」。
オリンピックで訪日外国人が増える。何を知りたくて、何を望んでいるか。イスラム教徒に限らず、異文化への先入観にとらわれず、一人ひとりに耳を傾けることが「おもてなし」の第一歩だろう。
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「旅行しやすさ」世界3位
マスターカードとクレセントレーティングの調査(2019年)によると、日本は「イスラム教徒が旅行しやすい旅先ランキング」で、非イスラム国・地域のうち英国と台湾と同点で3位。15年調査では11位だった。サービス、コミュニケーションなど4分野15項目の評価で、安全性や天候、信仰の自由さなど「環境」分野で高評価を得た。
一方、イスラム協力機構(OIC)加盟国を含めた順位では日本は25位。祈りの場所の数やコミュニケーションの取りやすさが低評価だった。
(田中早紀)
[NIKKEIプラス1 2020年1月11日付]
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