人手不足・災害… 波乱の年の次は飲食が社会を明るく
2019年もあとわずか。取材を通じて印象に残った飲食業界のトピックを振り返りたい。
人手不足が深刻化する中、人材資源を有効活用できていると感じたのが、異業種とのコラボ店だ。浜松市で取材したコインランドリーを併設したカフェ「LAVANO高塚店」は、強く印象に残った。
基本的にコインランドリーは無人営業だが、カフェとして店員がいるだけで安心感が増し、集客が増える。カフェが暇な時間は、店員がランドリーのメンテナンスをするので、別途スタッフを雇わなくてもいい。
さらに雨になると来店が増えるコインランドリーが同じ場所にあれば、カフェは天候による集客の落ち込みが少ない。働き方改革もあり、これからはスタッフ人数を省力しながら収益を上げる業態の開発として"あり"だと感じた。
ユニークな視点で食材を仕入れ、個性的な店作りに成功している店では共通する意義を感じた。東京・墨田にある宅配ずしの「黒酢の寿司 京山」は、日本中の漁港でおいしいにもかかわらず知名度がなくて出荷されないような未利用魚を購入し提供する。害獣駆除された鳥や獣を仕入れてジビエ料理にしている東京・代々木上原のフレンチ「サンフォコン」で食べた「カラス肉のパイ包み」も忘れられない。
それに、自社でハンターを雇いジビエの処理施設も立ち上げた「ジビエ焼肉 罠」などを運営する夢屋グループ。ジビエ処理施設の稼働も順調で、イノシシだけでなく、鹿肉の捕獲頭数も増えているという。ここで一頭買いした「うり坊」で自作したスモークは皮、肉ともに軟らかく絶品だ。
肉と言えば東京・新宿の馬肉焼き肉食べ放題の「馬焼肉酒場 馬太郎」も印象に残っている。低カロリー高タンパクとして知られる馬肉だ。これまで流通するほとんどが、刺し身用の高級部位だったが、この店ではあまり利用されていなかったバラ肉などの部位をジンギスカン風の焼き肉スタイルで提供。食べ放題にすることで割安感がでて、連日満席だ。グループ内に馬肉卸の会社があるので実現できた業態だ。
こうした店は、一般的ではなかった食材でも調理方法を工夫することでメニュー化を実現してきた。加えて社会問題の改善にも役立っている。こうした姿勢は他の業態でも成功のヒントになるだろう。
19年は飲食業界にとって、厳しい年だったと思う。絶望的なまでの「人手不足」、大雨、大型台風などの天災による「集客減少」、そして追い打ちをかけたのが「消費税増税」だ。
どれも深刻だが、「じわじわ来ている」と感じるのが人手不足。都心部・地方を問わず、営業時間を短縮する店を多く見かけた。筆者は都内の「サイゼリヤ」で、自分で紙にオーダーを書いて店員に渡す店に入って驚いたことがある。その店舗は店員の人数は足りているようだったが、端末の教育が間に合わなかったのかもしれない。とにかくバタバタしていた。
年が明けたからといって、すべてが好転することはないだろう。人口減少が加速する中、人手不足に対してはロボットの導入を含めた機械化など抜本的な対策が必要だろう。せめて20年は悪天候や災害だけは、来ないように祈るばかりの年の瀬だ。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2019年12月27日付]
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