歌舞伎の古典、新進が大器ぶり発揮 演劇・舞踊2019年

令和元年となった2019年の演劇・舞踊を代表する3作は何だったか。心に残ったステージを各ジャンルの評論家と編集委員が振り返った。

上村以和於 歌舞伎 練達の芸 にじむ深み

(1)尾上菊五郎 「め組の喧嘩」辰五郎、「江戸育お祭佐七」佐七、「髪結新三」新三
(5、10、11月歌舞伎座)
(2)中村歌六 「三人吉三巴白浪」土左衛門伝吉、「伊賀越道中双六・沼津」平作
(10、9月歌舞伎座)
(3)中村児太郎 「鴫(しぎ)立沢の対面」女朝比奈、「女車引」八重、「素襖落(すおうおとし)」姫御寮、「壇浦兜軍記」阿古屋
(1、6、7、12月歌舞伎座)

大御所、脇役、新進からそれぞれ一人に絞り込んでのベスト・ワン三題である。

(1)は仁左衛門が「盛綱陣屋」その他で示した、練達の芸に託した思いの深さといずれかと迷った末の選択である。いずれも、半世紀余に及ぶ舞台人生への思いを籠(こ)めた「今この時」を惻々(そくそく)と感じさせ、感銘深かった。

(2)は、老盗賊に年老いた雲助という、歌舞伎のレ・ミゼラブルというべき人物の年輪を、片や黙阿弥狂言、片や丸本物という、歌舞伎のそれぞれのジャンルの骨法を正攻法で踏まえた上でリアルに演じ切った。(3)は、児太郎がこの一年間という短時日に見せた大器ぶりだが、いずれも古典中の古典というべき役であるところに注目したい。

九鬼葉子 現代演劇(関西) 命の尊厳、未来の希望

(1)兵庫県立ピッコロ劇団「マンガの虫は空こえて」
(2月、兵庫県立芸術文化センター)
(2)清流劇場「壁の向こうのダントン」
(3月、一心寺シアター倶楽)
(3)南河内万歳一座「唇に聴いてみる」
(6月、一心寺シアター倶楽など)

現代社会の課題に真摯に取り組み、ダイナミックな演出で魅(み)せる舞台の多かった1年。(1)は手塚治虫の自伝的な漫画を原作に、戦争で失われる若者の青春、夢や命を描いた。岩崎正裕演出は清々(すがすが)しい合唱を交え、命の尊厳を未来への希望をこめて訴えかけた。

(2)はフランス革命を描いたドイツの劇作家・ビューヒナーの原作に、ベルリンの壁崩壊から30年という今日性を加えて、田中孝弥が脚色・演出。格差や民族の壁、人の心の壁。偏見に惑わされない民衆の力への期待を込めた。

(3)は、孤独な青年の追想と空想の世界を、内藤裕敬の躍動的な演出で鮮やかに展開しつつ、現実の喪失感を描写。社会から取り残された孤立する現代人を、象徴的に描いた。

現代演劇 最高度の演出に感銘

(1)NODA・MAP「Q]
(10~12月、東京芸術劇場など)
(2)世田谷パブリックシアター「チャイメリカ」
(2~3月、同劇場など)
(3)シアター風姿花伝「終夜」
(9~10月)

60代に入った野田秀樹の快作(作・演出)が(1)。クイーンの音楽、「ロミオとジュリエット」の物語、日本の戦争を重ね合わせる見立ての演出が最高度で実現した。争いが引き裂く純愛の悲劇が時空を超え、第2次大戦後のシベリア抑留の悲劇まで一気にうねる作劇は見事だった。海をめぐる詩想の叙情性、幕切れの喪失感の深さに作者の最良の資質が表れていた。松たか子が絶品。

(2)は英国の鬼才L・カークウッドが天安門事件の裏面史を劇化した話題作で、栗山民也の演出が鮮烈だった。事件の映像とメロドラマとが交錯する瞬間は忘れがたい。東京の極小劇場の志あるプロデュースだった(3)は家庭崩壊をえぐる北欧演劇の醍醐味を伝えた。L・ノレーン作品の濃度にこだわる上村聡史演出、栗田桃子の快演が光った。

(編集委員 内田洋一)

小山内伸 ミュージカル 本場の一級品を堪能

(1)来日公演「王様と私」
(7~8月、東急シアターオーブ)
(2)劇団四季「ジーザス・クライスト=スーパースター」
(5~7月、自由劇場など)
(3)パルコほか「怪人と探偵」
(9~10月、神奈川芸術劇場など)

(1)はトニー賞リバイバル賞を受けたプロダクションの歴史的な来日公演。主演女優賞のケリー・オハラの香り立つ演技と華麗な歌唱、主演男優賞ノミネートの渡辺謙の好演など、本場の一級品を堪能できた。王の苦悩の歌を息子らが反復する場面を加えるなど、次代をフィーチャーする再構成に妙がある。

(2)は昨年亡くなった浅利慶太の追悼公演。劇団員がただならぬ熱意を込めて浅利演出を再現した。日本語上演としては譜割り・リズムが最も正確で、L=ウェバーの楽曲のよさを雄弁に伝えた。

(3)は日本の作品では珍しく歌を中心に展開、二転三転する物語に躍動感を与えた。怪人と探偵の対決が、次第に事件から恋の鞘当(さやあて)へと推移する趣向もいい。

長野由紀 舞踊 新しい時代の幕開き

(1)吉田都引退公演「Last Dance」
(8月、新国立劇場)
(2)新国立劇場バレエ団「ロメオとジュリエット」
(10月、新国立劇場)
(3)英国ロイヤル・バレエ団「ドン・キホーテ」「ロイヤル・ガラ」
(6月、東京文化会館、神奈川県民ホール)

(1)は類(たぐい)まれな軽やかさと精度、詩情を内外で愛されたバレリーナのキャリアの集大成ともいうべき公演。一つの時代の終わりとして感慨深い一方、国内のバレエ団から精鋭の集った「誕生日の贈り物」の一体感が、日本のバレエの新しい時代の幕開きを感じさせた。

(2)は、定評ある演劇的名作の極めて完成度の高い上演。芸術監督の大原永子が重視してきた表現力が、任期最後のシーズン(来期より吉田に)を迎え結実した。舞踏会の場面で照明の入った瞬間、静止画の“圧”に息を呑(の)んだ。

(3)吉田が長く活躍した名門は今もスターの宝庫。初日のマリアネラ・ヌニェスはじめ主演者に万全の力量と華、多彩な個性がある。

[日本経済新聞夕刊2019年12月23日付]

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