歯周病は、喫煙者に多い慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクを高めるという研究もある。九州大学が福岡県久山町住民約8400人を対象に50年以上続けている生活習慣病の疫学調査によると、重度の歯周病の人はCOPDの発症リスクが約4倍高かった。西村教授は「たばこの煙などで生じた気道の炎症を歯周病菌がさらに悪化させるからではないか」と説明する。
口の中は「細菌の巣窟」
心臓の内膜や弁膜などにイボができる感染性心内膜炎も、歯周病菌など血管内に入り込んだ細菌が付着し増殖して形成されると考えられている。患者数は多くないが、適切に治療しないと多くの合併症を引き起こして死に至ることがある。
東海大学口腔外科の金子明寛教授は「心臓の弁置換術を受けた患者のほか、歯を抜いた患者が発症しやすいので、予防的に抗生物質を投与している」と話す。
口には約700種類の細菌が生息しており、歯垢(しこう)は1ミリグラム当たり1億~10億個の細菌が含まれる。武蔵野赤十字病院(東京都武蔵野市)の特殊歯科・口腔外科、園田格医師は「直腸と同じ密度で、口の中は『細菌の巣窟』といってよい。歯磨きなど適切な口腔ケアによって細菌を減らすことが全身の健康維持に大切だ」と強調する。
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中年以降の歯磨きは「1日4回、5分ずつ」
歯周病対策は、丁寧な歯磨きで口腔内を清潔に保つことが大切だ。特に高齢者は老化で歯肉や口の中の粘膜が弱り、唾液の分泌量も低下するので、歯垢や歯石が沈着し細菌が繁殖しやすくなるから注意が必要だ。
国立長寿医療研究センターの角・歯科口腔先進医療開発センター長は「中年以降の人は理想的には毎食後と就寝前の1日4回、5分間ずつのブラッシングが大切」と語る。
さらに3カ月に1度、かかりつけの歯科医で超音波を使った歯石除去や歯面・歯間清掃などの専門的・機械的な口腔ケアを受ければ「がんや脳卒中など重大な疾患の罹患リスクを下げる」(角センター長)という。
九州大学大学院の西村教授は最低でも朝と就寝前の2回を勧め、「歯ブラシの毛先が届きにくい部分にはデンタルフロスや歯間ブラシなどで食べかすや歯垢をかき出してほしい」と求める。
洗口液や殺菌力のあるカテキンが入った緑茶などで口をすすぐ方法もある。東海大学の金子教授は「口を動かしたり唾液腺をマッサージしたりして唾液の分泌を促し、細菌を洗い流すのが好ましい」とアドバイスしている。
(編集委員 木村彰)
[日本経済新聞朝刊2019年12月23日付]