AIと共に人類も進化 「ポストヒューマン」の特徴は
青山学院大学特任教授 小林康夫
問い直しの影響は、大学の人文学系学部への改編圧力などとして表れている=イラスト・よしおか じゅんいち
人文学は英語で言うならヒュマニティーズ、つまり「人間性」でもあるのだが、人間中心のその知が、いま、問い直されている。
大学の人文系諸学部に対する改編圧力という身近な現象もあるが、それは、世界史的な次元で急速に進んでいる、「人間」という存在そのものの問い直しのネガティブな効果であるように思われる。
この問い直しは、どのように起こってきているのか。
AIが人知を凌駕
乱暴なまとめだが、ひとつは、地球温暖化による気候変動に顕著に見られるように、人類の文化経済活動の総体が地球環境に重大な影響を及ぼし、他の多くの生命種を滅ぼしていることまでが明白になってきていること。
ふたつ目に、過去半世紀間の情報テクノロジーの発展によって、人間の能力の中核と考えられていた判断能力や情報処理能力などがAI(人工知能)によって、圧倒的に凌駕(りょうが)されるという事態になっていること。
最後にもうひとつ挙げるなら、西欧で生まれた「自由な個人」という近代的人間観に裏打ちされた国民国家、民主主義、資本主義という社会の基本構成に臨界が感じられているのにもかかわらず、それに替わる新しい人間観・社会システムが見えてこないこと。
深い深度をもってわれわれに切迫するこの問題提起に人文学はどのように応答するのか。
まず西欧近代が生み出した抽象的で超越的な「人間」概念そのものを「人類」という「種」へと接続する新しい地平を開かなければならない。そのためには「人類=人間」をこれまでの歴史の枠組みを超えて位置づけ直さなければならない。たとえば、篠原雅武著『人新世の哲学』(2018年・人文書院)が好例だが、1万年に及んだ「完新世」が終わり、「人間」の有限性から出発する「人新世」という新しい時代がはじまっているという認識のもとに、人間の条件をもう一度再考すること。