運動不足の私、ロコモかも 足腰の機能低下は40代から
状態調べ、少しずつ鍛える
歩くとき周りの人に抜かれることが多くなったら、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)が始まっている可能性がある。体をうまく支えられず転倒しやすくなったり、骨折しやすくなったりし、要介護状態につながる恐れもある。移動機能の低下を防ぐため、入念な対策が欠かせない。
ロコモは筋肉や骨などの運動器の障害のため移動機能が低下した状態を指す。東京都内に住む高宮宏美さん(67)は12月上旬、北里大学北里研究所病院(東京・港)でロコモのチェックを受けた。股関節に痛みを覚えるなど移動機能低下に不安を感じたためだ。下肢筋力や歩幅の測定などをした結果、ロコモには当てはまらなかった。
ただ油断は禁物。放っておくと筋力は低下していく。同病院の新井雄司トレーナーは高宮さんに、予防のためスクワットなどのトレーニングを勧めた。
ロコモは、運動器自体の疾患や加齢による運動機能不全から起こり、程度によってロコモ度1(移動機能の低下が始まっている状態)と、ロコモ度2(進行している状態)に分けられる。NTT東日本関東病院(東京・品川)の大江隆史整形外科部長は、ロコモ度2になると「自立した生活ができなくなるリスクがある」と指摘する。
ロコモは高齢者に多いと思われがちだが、実は「40~50代から始まっている」(新潟大学医歯学総合病院整形外科長の遠藤直人教授)。特に「日ごろデスクワークが多く、体を使っていない人は要注意」(日本介護予防協会理事の式恵美子さん)だ。「気がつかないうちにロコモになっている」(大江整形外科部長)という例も多いという。
自分がロコモになっていないかを知るには、日本整形外科学会が公表している7項目のチェックリストが参考になる。該当する項目が1つでもあれば、整形外科などでロコモ度を測るテストを受けるのがいい。
ロコモだと判定されたらどうするか。ロコモ度1の場合は「少なくとも現状維持を目指し、筋肉や骨を強化する。少しずつ運動を習慣化する」(大江整形外科部長)。ロコモ度2と判定されたら、「脚や腰にしびれがある場合は整形外科を受診し、ない場合は運動を習慣化する」(同)。
骨粗しょう症、変形性関節症、変形性脊椎症など運動器疾患が発症している場合は薬物治療が必要になることもある。しかし、加齢や運動不足により移動機能が低下しているのであれば「運動でロコモを改善するのは可能」(北里研究所病院でロコモ外来を担当する金子博徳副院長)だ。
ロコモの可能性がある人に対して、金子副院長は「バランス能力を鍛える片脚立ちや下肢の筋力をつけるスクワット」を推奨する。
さらに気をつけたいのは運動を継続することだ。東京都健康長寿医療センター(東京・板橋)でロコモ外来を担当する石橋英明医師は、片脚立ち、スクワット、かかと上げ、ウオーキングなどから「自分が続けられそうなもの」を選んで実行することを勧める。
継続には工夫も大事。施設や自宅以外でも「片脚立ちならオフィスなどでもできる」(遠藤教授)。ひとりで続けるのが難しい場合は「仲間と一緒にウオーキングをするのもいい」(同)。
日常生活で足腰を使う機会が減ったことで、ロコモに陥る人は増えている。金子副院長は「ステージの低いうちに対策を打ち、ロコモリスクを減らすことが大事」と強調する。
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要介護の原因にも
厚生労働省の2016年国民生活基礎調査によると、要介護となった原因として、転倒・骨折、関節疾患など運動器の機能低下によるものが全体の22%を占め、認知症や脳血管疾患を上回った。
ロコモ予防に効果的といわれるのが、日本整形外科学会が推奨している「ロコトレ」と呼ばれる2つの運動だ。
ひとつはバランス能力をつける「片脚立ち」。転倒しないよう近くにつかまるものがある場所に真っすぐ立ち、床につかない程度に片脚をあげる動作を左右1分間ずつ繰り返す。1日3回するのが目安だ。
もうひとつは下半身を鍛えるスクワット。5~6回を1セットとし、1日3セットする。不安がある人は椅子に腰掛け、机に手をついた状態から立ち上がったり座ったりする動作を繰り返す。
(大橋正也)
[日本経済新聞夕刊2019年12月11日付]
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