治療難しい乾癬 つながり促す患者支援の新しい動き
慢性の炎症性皮膚疾患である「乾癬(かんせん)」。患者支援団体や企業がネット配信イベントを通じて治療などの最新情報を伝えたり、病気を気にせず楽しめるファッションを提案するなど、患者支援の新しい動きが広がっている。病気に対して後ろ向きな気持ちにならないよう、精神的なサポートを重視する取り組みで、他の病気の患者支援活動にも参考になりそうだ。
10月下旬の週末、乾癬をテーマにしたライブ配信のトークイベントが東京都内と札幌、宇都宮、福岡を結んで約3時間にわたり開かれた。皮膚科専門医による講演や、各スタジオに集まった患者の経験談、情報交換など、乾癬を話題にした様々な「語り」がネットを通じて交わされた。
イベントのテーマは「つながろう」。ともすれば孤独になりがちな患者同士のネットワーク作りを進めるほか、患者が乾癬の正しい知識を得たり、適切な医療機関にアクセスするといった様々な意味での「つながり」を強めていこうという意味を込めた。
乾癬は完治は難しいとされるものの、症状を抑える新たな治療法が近年登場している。また食生活など生活習慣の改善を通じて症状をコントロールできるケースもある。こうした患者にとって有益な情報を、どこからでも視聴できるネットイベントを通じて届けたいという狙いがある。
イベントを主催した「INSPIRE JAPAN WPD 乾癬啓発普及協会」理事の大蔵由美さんは「患者の中には引きこもりがちになる人もいるので、ネットを使うのが効果的だ」と話す。
会場では、音楽クリエーターのヒャダインさんが作った乾癬患者への応援ソング「晴れゆく道」が流れて場を盛り上げていた。ヒャダインさん自身も乾癬患者で、公募で集めた患者の生の声や他の患者へのメッセージを念頭に曲を作ったという。
11月初めには米系製薬のヤンセンファーマが都内で乾癬患者らによるイベント「HIKANSEN SALON(ヒカンセン サロン)」を開催した。「ヒカンセン」には「乾癬は感染しない」事実への社会の理解を深めるとともに、「患者が病気を悲観せず」に生活できる社会をという意味が込められている。
トークセッションでは管理栄養士が、脂質やコレステロールの摂取が抑えられる乾癬ケアに効果的なメニューなどを紹介。近年の新治療法にかかる費用や、負担額の軽減制度について専門家が解説した。
このイベントでは、ファッション面で患者のニーズに応えるアパレルプロジェクト「FACT FASHION」も発表された。素材の再利用など環境活動に取り組むリバースプロジェクト(東京・港)が、患者からヒアリングをしながら、かゆみを感じにくい素材を使ったり、体の締め付けの少ないデザインなどを開発・提案するという。
乾癬のように治療法の進展にもかかわらず、情報が届かずに患者が治療の機会を逃すケースは他の病気でもありそうだ。ネットによるコミュニケーション手段を駆使して、患者に情報を提供したりニーズを拾い上げたりする試みは、他の病気でも効果的だろう。
新たな治療法に期待
国内の乾癬患者は50万~60万人と推定され、近年は増加傾向にある。主な症状として、皮膚が赤く盛り上がる「紅斑(こうはん)」、細かいかさぶたのような「鱗屑(りんせつ)」、皮膚の表面がフケのようにパラパラとはがれ落ちる「落屑(らくせつ)」などがある。
患部では皮膚の表面に角質が積み重なって、分厚くなっている。皮膚の新陳代謝が異常に活発になり、通常の約10倍のスピードで皮膚が作られているためだ。メカニズムは完全には分かっていないが、何らかの免疫機能の異常が関係しているとみられている。
乾癬の治療法には、ステロイドなどの塗り薬を用いる外用療法、患部に紫外線を照射する光線療法、内服療法のほか、近年登場した生物学的製剤による注射療法がある。
適切な治療法を選ぶことで、皮疹がほとんどない状態を長く維持している人も増えているという。症状には個人差があり、生活習慣の見直しとともに本人に合った治療を続けることが重要とされる。
(編集委員 吉川和輝)
[日本経済新聞夕刊2019年12月4日付]
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