労働者のエネルギーを形に 福岡・筑豊の炭鉱スイーツ

2019/11/28付
ごつごつした石炭をかたどった羊羹「黒ダイヤ」はあっさりした風味
ごつごつした石炭をかたどった羊羹「黒ダイヤ」はあっさりした風味

福岡県の中央部、筑豊地域は明治から昭和の前半にかけて隆盛を誇った産炭地だった。全国から集まった労働者のエネルギー源であり、羽振りの良さを競う炭鉱経営者らの土産物として広まったのが饅頭(まんじゅう)や羊羹(ようかん)といった菓子類だ。相次ぐ閉山で厳しい時代も経験した「炭鉱スイーツ」たちをかみしめると、甘さの中に往時の熱気やどこかほろ苦さを感じさせるものが多い。

直径30センチメートル近いサイズもある大石本家の「成金饅頭」

掘り当てれば金になる。そんな石炭の通称「黒ダイヤ」を冠した羊羹は、亀屋延永(福岡県飯塚市)が1948年ごろに発売した。岩のような外観は凹凸のある木型で固めるが、「当初は本物の石を置いてかたどったそうです」と荒川美佐代社長は話す。

鹿児島県産の黒糖に国産小豆のあん、寒天を煮て自然に固める製法を受け継ぐ。どっしりした質感とコクのある甘みだが、あっさりした風味はお茶うけにいい。今も採掘される石灰石を模した「白ダイヤ」はインゲン豆を使う。本店の喫茶コーナーからは炭鉱の採掘物を積み上げた「ぼた山」が望め、作業の合間に羊羹をつまんだという炭鉱労働者に思いをはせられる。

福岡県直方市の名物「成金饅頭」は、高級品だったあんをふんだんに使ったことから炭鉱主が名付けたとされる。もともとは炭鉱景気の勢いで大量の豆を買い込んだ人が投機に失敗し、大きな饅頭にしたことから生まれた。専門店の大石本家では直径9センチメートルから、予約注文で最大29センチメートルまでそろえる。

どら焼きのようだが、生地の端は手作業で閉じる。梅の焼き印が押されたふわふわの生地に白あんがぎっしり。下味をつけないインゲン豆をあんに混ぜ、甘さを抑えて豆粒の食感を残す。同店の迎愛人さんは「丸い形や縁起のよい商品名から結婚式で入刀したり、スポーツ選手などの金メダル祝いに買われたりする方もいます」という。

パティシエら6人が石炭の黒をテーマに作った菓子ブランド「クロセレクション」

石炭の黒色をテーマに筑豊の和洋菓子6店舗が共同ブランドで展開するのが「クロセレクション」。福岡県飯塚市のパティスリーセゾンを訪ねると、棒状の仏菓子「黒ッカン」、八女茶のクリームを挟んだラングドシャ「一福」などが並んでいた。無味無臭の竹炭を生地に練り込み、引き締まった見た目が印象的だ。「産炭地には、人情が厚く、ちょっとした甘い物を分け合う文化が息づいている」。杉岡昭夫社長は現代の黒い菓子にも地域の誇りを込めていると話す。

<マメ知識>銘菓生んだ「砂糖の道」
筑豊地域は江戸時代の貿易窓口だった長崎から本州に向かう旧長崎街道沿いにある。貴重な輸入品だった砂糖は海路で江戸に運ばれたが、積み荷からこぼれた砂糖や役人の間で流通したものが菓子作りにつながったとされる。街道一帯からはカステラ、名菓ひよ子、千鳥饅頭、金平糖などが生まれた。チロルチョコは福岡県田川市の松尾製菓が発祥だ。旧街道は「シュガーロード」とも呼ばれる。筑豊巡りの際は黒いソフトクリームがある道の駅いとだ、直方市や田川市の石炭資料館もお薦めだ。

(北九州支局長 山根清志)

[日本経済新聞夕刊2019年11月28日付]