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山内さんはおしゃべりで乗客との距離を縮め購入を促す

近畿日本鉄道の大阪阿部野橋―吉野を結ぶ観光特急「青の交響曲(シンフォニー)」。濃紺色を基調とした3両編成の2両目に、軽食やお酒を楽しめるラウンジ車がある。この車両のもう一つの魅力が、チーフアテンダントの山内杏子さんだ。豊富な知識で乗客との会話も弾み、車内は和やかな雰囲気に包まれる。

青の交響曲は「上質な大人旅」がテーマ。定員65人で全席指定の1号車と3号車には座り心地を追求したソファが並び、ラウンジ車では革張り椅子を配置するなどホテルのバーのような雰囲気を演出する。乗客はそこでおつまみや飲み物を購入し、自席やラウンジ車で飲食を楽しめる。

ラウンジ車での物販を担当する山内さんが大切にするのが、乗客とのコミュニケーションだ。新幹線などと異なり、青の交響曲ではワゴン販売がない。自分から商品を売り込めない分、出発前のホームや車内で積極的に声をかける。

まずはあいさつ。その後に行き先を尋ね、周辺でオススメの観光地などを紹介する。こうした「おしゃべり」を通じて親しくなれば、話し相手としてラウンジ車に足を運んでもらえる。知っている相手から商品を買いたいという心理も働き、話が弾むと販売につながることが多いという。

乗客の目的地がどこでも対応できるように、沿線の観光地を回ったり、特産品を試したりして知識を蓄えてきた。以前は近鉄グループの大型複合施設「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)で展望台スタッフを務めた経験を持つ。乗客の車内での滞在は最長でも約1時間20分。決して長くない時間で、一人ひとりに合わせた丁寧な接客を徹底する。足が不自由な高齢客には、通常はお盆に載せて提供するワイン瓶をビニール袋に入れて渡す。

「いったん何かを買うと、リピーターになってくれるお客様が多い」と分析する山内さん。青の交響曲は毎日2往復する。乗客の多くは往路と復路の両方で利用するため、行きの便で親しくなって商品を買うと、帰りの便でも商品を手に取ってくれる。やはり第一印象が重要になる。

ラウンジ車で扱う商品は多い。奈良県の地鶏を使ったカレーライスや柿の葉すし、大阪マリオット都ホテル料理長による季節のオリジナルケーキ、青の交響曲をあしらったピンバッジ……。中でもお薦めなのが全7種の地酒から3種を組み合わせた飲み比べセットだ。狭いカウンターの中でも目を引くよう、棚の地酒の瓶を少し高めの位置に置く工夫もしている。

大阪府出身で話し好きだと分析する山内さんには後輩からの相談も多い。仲間内でのコミュニケーションも重視し、休憩中はおしゃべりで親睦を深めている。目標は「青の交響曲ファンを増やすこと」。そのために、ラウンジ車が乗客にとってどんな場所になるべきか試行錯誤する毎日だ。まだ明確な答えは出ていないが、大好きなおしゃべりの中で理想の売り場作りを目指す。

(高崎雄太郎)

[日経MJ2019年11月25日付]

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