相続空き家 片づけで心に区切り、仲間と一緒も支えに
親が亡くなり空き家になった実家を何年もそのままにしている。思い当たる人もいるのではないか。放置する理由でよく挙がるのが片付けの大変さ。経験者の解決策を探った。
「ここまで5年かかった。やっと終わる安堵感。実家がなくなる寂しさは、これから来るんでしょうけど」。東京・多摩東部、戸建ての実家の片付けを終えた会社員の男性(27)は晴れやかだった。
最後の仕分けを手伝いながら話を聞いた。就職して実家を出てすぐ、母が入院中にひとり暮らしの祖母を亡くし、実家は空き家に。後に母も亡くなって相続した。千葉県内の自宅から換気に通うが、家の傷みが目立ち、ハクビシンがすみ着いたことも。税や光熱水費は年間数十万円。管理代行を頼んでいたNPO法人空家・空地管理センター(埼玉県所沢市)とも相談し、更地にして売ると決めた。
家財の量は想像以上だったという。片付けの日が、ごみ回収日とは限らず、車で持ち帰るのもしばしば。難関は仕分けだ。男性はスケッチブックを眺めつつ「ひとりで残すか捨てるか決め続けるのはつらくて」。記者も親のコレクションやアルバムを処分できるか。相談相手がいないと踏ん切りがつかないと思う。
実家には思い出の詰まった品が多い。業者に丸ごと処分してもらうという選択肢もあるが、家の売却や解体で期限が迫らないと、そもそも手を着ける気になりにくい。
空き家に関する著書もある住生活コンサルタントの大久保恭子さんは「まず自分が欲しい物を宝探し感覚で探す。余裕があれば親族や友人に引き取ってもらう。捨てる後ろめたさが和らぐ」と話す。
空き家の片付けを支援するモノコミュ研究所(兵庫県西宮市)の山藤美幸代表理事は「家の片付けは家族の節目。心の区切りになる」。自らも父の実家を片付けるのに3年かけたという。片付けの期間は気持ちを整理するために必要な時間なのかもしれない。
地方出身で実家が遠い場合も基本は同じ。ただ第三者を巻き込むことで負担が軽くなる場合もある。山口県周防大島町を訪ねた。元は雑貨店の旧家を持つ大谷和正さん(61)は進学で島を離れ、今は千葉県浦安市で暮らす。母を亡くし、実家は10年ほど空き家。「売る気はなく、仕事を辞めたら整理しようと考えていたが、なかなかできなくて」
そんなとき旧知の寺の住職から「お試し移住やシェアオフィスの拠点を探している人がいる」と島に移り住んだ集落支援員の栄大吾さん(30)を紹介された。「地元の役に立つなら貸そう。片付けのきっかけにもなる」と決断。3度ほど帰郷して必要な物をえり分け、残りは委ねた。
11月上旬に栄さんを訪ねた。既に仲間と3トン車で10往復以上していたが、屋内に荷物はまだ山積み。それでも一緒に半日片付けると視界が開け、先も見えてきた。「人が集える場」に変わりつつある。
仲間を募るワークショップ形式で古い家を片付け、再生する試みもある。兵庫県丹波市では蔵が3つ並ぶ庄屋だった旧家をゲストハウスにする企画が進行中だ。パン店経営の三沢孝夫さん(58)やジェラート店主、家具職人など様々な人が手弁当で集まり、片付け自体を「イベント」化していた。実際わいわいやりながらの作業は楽しかった。
東京から片付けに通う会社員の湯佐安紀子さん(29)は田舎暮らしや古民家に興味があり、移住した同級生の縁で、この試みを知った。「私も実家は大阪。片付けを体験して、今のうちに物は減らそうと親と話し、実践している」
それでなくても片付けは労力、時間、お金がかかる。周囲の助けは心の支えになる。
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空き家、7戸に1戸
総務省の調べでは全国の空き家は849万戸。住宅全体の7戸に1戸に当たる。2015年施行の空き家対策特別措置法で、危険な空き家に指定されると、固定資産税が増えたり、強制的に取り壊す代執行の対象になったりする可能性がある。国や自治体は「空き家バンク」で売却や賃貸を仲介するなど対策を講じるが「近所の手前、見知らぬ人に売ったり貸したりできない」との声は根強い。ただ決断を迫られる日はいつか来る。空き家の存在を早くから意識し、対処法を学んでおきたい。
(河野俊)
[NIKKEIプラス1 2019年11月23日付]
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