遺族は第二の患者 専門外来や集まり、癒やしの場に
がんなどで闘病の末に家族を失った遺族は、自責の念に駆られるなど心に深い傷を残すこともある。喪失感で抑うつ状態が長引き、健康を害する人も少なくない。「第二の患者」ともいわれる家族にとって、専門外来や一緒にみとった医療機関の継続的なケアや、遺族同士の集まりは癒やしにつながる。心の傷を放置せず、早めに対応することが大切だ。
10月下旬、埼玉医科大国際医療センター(埼玉県日高市)包括的がんセンターの「遺族外来」を同県狭山市に住む女性(70)が訪ねた。
女性は12年前、夫(当時58)と死別した。夫は原因部位が分からない「原発不明がん」で、診断から2カ月後に息を引き取った。女性は「早く受診させていれば……」と自分を責め、意欲が湧かず、仕事も辞めた。「子どもがいるからいいじゃない」。周囲の慰めは逆効果だった。
夫をみとった医師の紹介で遺族外来に通院。多いときは週1回だった通院は現在、3カ月に1回程度で、女性は「話を聞いてもらえるだけで気持ちが楽になる」という。
全国に先駆けて遺族外来を開設した同センターの大西秀樹・精神腫瘍科診療部長は「家族は『第二の患者』ともいわれ、ストレスが大きい場合、精神科的な治療が必要なこともある」と指摘する。
かみいち総合病院(富山県上市町)では終末期を在宅で過ごした患者の遺族を支える「グリーフ(=悲嘆)ケア訪問」を実施。患者が亡くなってから2週間~2カ月をめどに、主治医や看護師らが自宅を訪問している。
「正しい選択だったのか」と迷いが生じる遺族もいる。訪問では現在の心境を受け止め、在宅診療を振り返るなど遺族をねぎらう。家庭医療センターの大野知代子・看護師長代理は「一緒にみとった立場として悲しみに共感し、遺族の癒やしになる」と話す。
遺族同士の集まりも悲しみを受け止める場となる。
神奈川県立がんセンター(横浜市)の緩和ケア病棟では、家族を亡くしてから3カ月~1年内の遺族に向けた遺族会「たんぽぽの会」を開催している。始めた2002年当時は年1回の開催だったが「もっと早い時期に参加したかった」との声があり、17年から年6回まで回数を増やした。久保田顕子・看護科長は「大切な人を亡くした悲しみやつらい気持ちを共有し、励まし合える」という。
「訪問看護ステーション はーと」(東京・葛飾)もグリーフケアとして、遺族会「さくらさくら」を開催。葛飾区は死別後に単独世帯となる遺族も少なくないため、遺族への支援として取り組みを始めた。
NPO法人「AIMS」(東京・荒川)では、親をがんで亡くした未成年の子どもにグリーフケアプログラムを実施している。子ども同士で喪失体験を話したり、遊びを通じて悲しみを表現したりする方法を学んだりして、子どもたちの心のケアに取り組む。
三浦建太郎理事は「若くしてがんで亡くなる人の多くは幼い子どもの親でもあることが多い。子どもに対するケアも必要だ」と指摘している。
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喪失感、長引くケースも
国立がん研究センターが2016年の人口動態調査の死亡票を基に特定の疾患で亡くなった患者の遺族約4800人を調査したところ、がん患者の死別から1年以上経過していても、17%が抑うつ状態に悩まされていたことが分かった。
強い悲しみが続き、日常生活に影響を及ぼす状態の「複雑性悲嘆」がみられたがん患者遺族の割合は26%に上った。
悲嘆が長く続く遺族も多い。NPO法人HOPEプロジェクト(東京・豊島)の「がん患者白書2016」によると、10年以内にがんのみとりを経験した遺族のうち、喪失感が1年以上続いた遺族は33%。3年以上喪失感を抱いていたのは全体の20%だった。
喪失感による影響を聞くと「知らずに涙が出る」が最も多く、「風景や特定の場所へ行くと思い出す」が次いだ。「無欲・無力感」などを感じていた遺族も多かった。患者が亡くなった時の喪失感の程度は45%が最も高いスケールを選んだ。
(金子冴月)
[日本経済新聞夕刊2019年11月20日付]
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