池井戸潤氏と親交 葛藤や挫折を描く銀行小説から刺激
劇団四季社長 吉田智誉樹氏
吉田智誉樹氏と座右の書・愛読書
よしだ・ちよき 1964年横浜市生まれ。慶大文卒。87年四季株式会社(劇団四季)入社。広報や営業関連の担当を経て、2008年取締役。14年から現職。
幼い頃から世話になった先輩に、演劇部に誘われました。男子が足りなかったんですよ。この部活の仲間に誘われて、初めて演劇を見ました。劇団四季の「コーラスライン」です。「ジーザス・クライスト=スーパースター」「エレファント・マン」も覚えています。舞台美術は金森馨さん。どれも美しくて、作品集『舞台装置の姿勢』は繰り返し読みました。
いま見ても斬新です。高校時代に自分が演出した芝居で金森さんの装置をまねたことがあるのですが、全然ダメでしたね。大学時代には唐十郎さんなどの小劇場演劇も見ました。
その流れで、やはり演劇をやっておられた寺山修司さんの短歌に引かれました。みずみずしい青春の輝きをうたった歌の数々です。はじめは私小説的なものと思って読みましたが、後に寺山さんの歌は「創作」が多いと知りました。そこにも、しびれた。
寺山さんの作品とは今も仕事でご縁があります。劇団四季は「こころの劇場」というプロジェクトで、全国の子どもたちをミュージカルに招待しているのですが、そこで上演している「はだかの王様」「王様の耳はロバの耳」は、寺山さんが台本を手がけています。それだけに、大人もドキリとするセリフがある。こうした、優れた作家が生み出す言葉の力に私は引かれます。私の読書も、人生も、言葉の力に引かれ、導かれているのだと思います。
大学時代はハイデガーにも挑戦しました。中学時代に読んだ筒井康隆さんの本に『存在と時間』について触れた部分があり、そこに世界の真理が書かれているように感じたのです。慶応大学に入ったら、哲学者の木田元先生の講義が週に一コマありました。あまり大学には行っていなかったのに、これだけは欠かさず出席しました。
フランスの戯曲も読みます。ジロドゥでは「オンディーヌ」が好きです。特に3幕の、記憶を失うオンディーヌと、命の消えかけたハンスとの掛け合いが素晴らしい。ハイデガーではありませんが、一種の存在論のようにも感じます。サルトルなら「汚れた手」。理想主義の青年が破滅する話です。演劇というと、美しい夢の世界のように見えるかもしれませんが、仕事の実態はきれい事だけでは済みません。私の手だって汚れている。だから、この戯曲に引かれるのかもしれません。