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有井さんはプランを提案しながら顧客の課題を解決する

スパイ映画「007」シリーズのボンドカーで知られる英国の超高級車アストンマーティン。同車の世界一の販売員が日本にいる。アストンマーティン東京(東京・港)の有井和真さんだ。2018年は約15億円に相当する新車39台を販売し、最優秀販売員として英国の本社から表彰を受けた。1台数千万円からという超高級車を購入してもらえる秘訣は、徹底的に顧客に寄り添う姿勢だ。

独ポルシェの販売員としてキャリアをスタートした有井さん。「顧客の話を熱心に聞き、相づちを打っていればいいと思っていた」と当時の営業スタイルを振り返る。学生時代のガソリンスタンドでのアルバイト経験から接客には慣れており、販売成績はよかった。

聞き役に徹する営業が間違っていると考えるようになったのは17年2月にアストンマーティンの販売員になってからだ。富裕層を顧客に持つことが増え、著名な経営者などを相手に車の内外装の素材や色などを話し合いながら仕上げていくうちに「顧客が求めているのは一緒に課題を解決すること。相づちを打つだけでは何も意味がない」。

それ以来、有井さんは積極的な提案スタイルに変更、顧客がアストンを持つに至るまでの課題を聞き出して一緒に解決をすることを目指すようになった。例えば、支払い方法や他ブランドとの比較、購入後の顧客の駐車場探しまで親身にアドバイスをする。顧客が1台数億円という特別な車を購入する場合、英国本社まで同行し、生産風景を見てもらいながら満足してもらおうと徹底的に寄り添う。こうした姿勢が顧客の信頼につながるという。

接客で特に気をつけるのは身だしなみだ。シャツは白色、ベルトや靴は黒色、スーツのパンツにはしっかりと折り目を……。「第一印象で好感を持ってもらうために清潔感は大事」。常にきちんとしたスタイルを貫く理由を聞くと「アパレルショップではないんで」ときっぱり。

一方で、顧客への接し方に堅苦しさはない。「話したいと思ってもらえるように顧客と温度感を合わせることが大切」という。顧客は企業経営者が多く、休日には経済書を読みあさり、株や不動産投資などの勉強を欠かさない。「知識がないと相手に寄り添うことすらできない」とストイックだ。後輩の加藤豪さんは「有井さんの言うとおりにすれば車は売れる」と全幅の信頼を寄せる。

有井さんが車の販売員になったきっかけは教師だった両親の存在だ。決して人の悪口を言わず、他人を喜ばせるのが上手で「尊敬する親のように人を幸せにする仕事をしたい」と車の営業職を志した。

アストンマーティンは日本市場で好調が続く。18年には2年連続で販売台数が300台を超え、19年も1~9月で前年同期比約3割増の251台を販売する。高級車の中でもひときわ存在感を高めつつあるアストン。有井さんのようなきめ細かな接客が支えている。

(為広剛)

[日経MJ2019年11月4日付]

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