労使交渉の難局 『ポケット論語』100回で乗り切る産業雇用安定センター会長 矢野弘典氏

矢野氏と座右の書・愛読書
矢野氏と座右の書・愛読書
座右の書は、昔どうしても読み切れなかった『論語』である。
やの・ひろのり 1941年東京生まれ。63年東大法卒、東芝入社。同社欧州総代表兼東芝ヨーロッパ社社長、日本経団連専務理事などを歴任。2005年10月から現職。

東芝で労働組合の相手をする労働課長になって、労働組合と会社の上司との間で板挟みになりました。「相手の言い分ばかりを言う」と両方から責められたのです。何か確かな拠(よ)り所が欲しいと思い、そうだ孔子の『論語』がいいと飛びつきました。

実は中学の漢文の授業で少しかじり、高校、大学、東芝入社後と、何度か通読しようとしたのですが、途中で投げ出していたのです。

今度は絶対に挫折しないぞと、まず吉川幸次郎監修の『論語』を半年かけて読みました。これで基礎知識をつけて、第一生命保険の社長、会長をされた矢野恒太氏編の『ポケット論語』を読みました。初版は1907年で、私が読んだのはご子息の矢野一郎氏が57年に出した復刻版です。

読書百遍義自ら見(あら)わると言いますから、100回読みました。結果は、読書百遍義いよいよ深しでした。読めば読むほど興趣が増します。

よい言葉がたくさんあるんです。例えば「徳は孤ならず、必ず隣あり」。よいことをしようと努めれば、協力者が必ず現れる。会社の事業も同じです。会社が末永く存続するには、人のためになるような徳業に励み、世の中の信頼を得なければいけません。

最初は堅苦しい本かと思いましたが、孔子の人間味あふれる側面がいっぱい出てくる点も大きな魅力です。孔子は大酒飲みで、「酒は量なし、乱に及ばず」という言葉があります。酒はいくら飲んでも乱れない。昔、会社の先輩に「酒に飲まれてはいかん」と教わったことは2500年前からそうだったのですね。今も『論語』はほとんど毎日読みます。そのたびに新たな発見があり、まさに座右の書です。

時代や国を超えた共通の価値観を、読書を通じて考える。

中日本高速道路の会長になったとき、塩野七生さんの『ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず』を読み直して、ローマ帝国の道路の成り立ちに改めて感心しました。

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