マリンバが開く音楽の可能性 ジャンル越える奏者続々
木琴の一種である鍵盤打楽器マリンバの奏者が多彩な活動で注目を浴びている。現代音楽で使われることが多いが、ジャンルを超えて楽器の可能性を広げる挑戦が光る。
「純クラシックの奏者だった私がジャズと出合って活動の幅が広がった」。日本生まれ、米国在住のミカ・ストルツマンはそう語る。
世界的名手と共演
6月に音楽の殿堂、ニューヨークのカーネギーホールで開いたリサイタルでは、バッハ「無伴奏バイオリンのためのパルティータ第2番」の有名な「シャコンヌ」から、ジャズピアニストのチック・コリアが書いたオリジナル「マリカ・グルーヴ」まで、多彩なナンバーを演奏した。
コリアの曲では夫でクラリネット奏者のリチャード・ストルツマンに加え、ベースのエディ・ゴメス、ドラムのスティーヴ・ガッドという世界的な名手とのセッションを繰り広げた。
熊本県で生まれ、音楽教師として勤務しながらマリンバを習得。2008年から米国に拠点を移す。12年にリチャードと結婚し、公私とも活動を共にする。夫妻はクラシック畑だが、ジャズ系の友人が多く、自然と音楽性が広がった。
6月に夫妻でバッハなどのクラシック曲を演奏したアルバム「パリンプセスト」を発表。11月にはガッドらが参加したジャズアルバム「Tapereba」を発表し、ジャンルをまたがって活躍する。
マリンバはアフリカ大陸の民族楽器がルーツとされ、20世紀初頭に米国で普及した。クラシックでは比較的新しい楽器のため、現代音楽で使われることが多い。スティーヴ・ライヒらの楽曲が知られている。
ジャズ演奏では従来、金属製の鍵盤をたたくビブラフォンが使われることが多かった。マリンバより音量があり、残響をコントロールしやすいからだ。ミカは「マリンバでジャズをやるのに疑問の声もあったが、今は音の質をストレートに聴いてもらえる」と語る。
木琴と弾き比べ
学究的な面から、マリンバの魅力を広めているのが関西を拠点にする通崎睦美だ。京都市立芸術大卒業後に活動を始め、05年には戦前に米国で活躍した伝説的な木琴奏者、平岡養一(1907~81年)が使っていた木琴を譲り受けた。通崎は木琴の歴史や平岡のキャリアに関心を寄せ、13年に出版した平岡の評伝「木琴デイズ」(講談社)は吉田秀和賞とサントリー学芸賞をダブル受賞した。
平岡が使っていた楽器は幅が2メートル以上あり、大きさや形はマリンバに極めて近い。「木琴はルネサンス期から欧州で使われ、米国で花開いた。上質な音のマリンバに対し、親しみやすく気軽に聴けるのが木琴」と指摘する。
現在は木琴とマリンバを弾き比べ、解説する公演などを開催。10月には、王子ホール(東京・中央)で弦楽四重奏団のクァルテット・エクセルシオと共演し、モーツァルトから現代作曲家の平野一郎への委嘱曲までを披露した。
マリンバで音楽性を広げる打楽器奏者も目立つ。中でも米国在住の加藤訓子(くにこ)の活躍は目覚ましい。
加藤はライヒやクセナキスら、様々な打楽器を駆使する現代作曲家の作品に傾倒。近年はバッハにも触発され、マリンバを演奏する機会が増えている。11月7、8日にはサントリーホール(東京・港)でマリンバによるバッハのバイオリン無伴奏作品などを演奏する。「他の打楽器をやることでマリンバの魅力を再発見できた」と加藤。
様々なマリンバ奏者がジャンルを飛び越え、楽器の新たな魅力を引き出している。奏者次第でまだまだ可能性が広がる楽器といえそうだ。
(岩崎貴行)
[日本経済新聞夕刊2019年10月29日付]
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