湯船と更衣室では温度差が大きい。血圧が変動することで心筋梗塞につながるヒートショックが起きやすい。土田さんは「銭湯利用者は比較的年齢が高い。当然、AEDが普及しているものだと思い込んでいた」という。

思い込みを排除

ヒートショックで亡くなる人は年間2万人近いのだが、そもそもヒートショックを知らない銭湯経営者が大半だった。「業界の常識と世間の実態はこうまで違うのかと、勉強になった」と振り返る。

AEDの設置・利用料は月々数千円。だが1人数百円の入浴料では1台設置するのも大きな負担だということも実感できた。自治体などに掛け合い、補助金を活用することで、全国で100台以上の導入につながったという。

今後の目標は設置場所の拡大と同時に、緊急時に使える人を増やすことだ。現在のAEDの使用率は4~5%で「せっかく置いても役割を果たせずにいることが多い」。

そこで「AEDが必要なときに必要な場所に持って行ける仕組み」づくりを急ぐ。土田さんのチームは、18年から提携しているソフト開発のCoaido(コエイド、東京・文京)に目を付けた。

同社の119番通報アプリ「コエイド119」は、AEDを設置している施設の固定電話に、合成音声で緊急通報をするサービス。AEDの設置数が多い病院や介護施設には、看護師や介護士ら訓練を受けた人が常駐している。

「現場近くの看護師や介護士らがAEDを持って現場に駆け付けることができれば、救命率は大幅に上がる」(土田さん)。まずは、セコムが地域の安心・安全のまちづくりに関する協定を結んでいる東京都豊島区で、AEDを巡る連携が進んでいる。

同部門がセコムの連結売上高に占める割合はまだ小さいが、AEDは安心な社会を支える機器として重要度が着実に高まっている。業界トップクラスの販売を支えるのは営業担当者の使命感であり、地域の人々からの信頼感でもある。

(吉田啓悟)

つちだ・いさみ
2009年セコム入社。事務センターで、コールスタッフなどを6年間務めた後、特品部に所属。AEDインストラクターとして、年間6000件に上る講習会を取り仕切る。

[日経産業新聞2019年10月25日付]

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