スペインバルと生花店のコラボで幻想空間 東京・蒲田
京浜急行電鉄の京急蒲田駅から徒歩4分の場所で通いたくなるスペインバルを見つけた。店名は「Flowers&Spanish Sonrisa(フラワーズ&スパニッシュ ソンリサ)」。花屋のショールームとバルのコラボ店だ。週5日営業ながら66平方メートルで月商は300万~350万円と健闘している。
店内はドライフラワーが壁や天井を埋め尽くしており圧巻。テーブルには生花が飾られており、キャンドルの明かりと相まって幻想的な空間になっている。
オーナーシェフの上田光嗣氏は多くの食通が足しげく通ったという割烹(かっぽう)を共同経営していた。味には定評があり繁盛も、共同経営の難しさを痛感。割烹店からは手を引き、心機一転スペイン料理店で勤務し、一から出直した。その後、現在の店を2017年11月に開業した。
スペインバルと言えば小皿料理のタパスが欠かせない。上田氏は本場の味を大切にしながら、割烹で培った技法を取り入れ独自性のあるタパスを約20種類用意する。「野菜のトマト煮込み」(480円)や「塩ダラとじゃが芋のマッシュフリット」(同)などの定番の他、鮮度の良い食材が入ったときだけ作る「マグロの生ハム」(時価)などもある。これらのタパスはお一人様客に限り、ハーフサイズでも提供。ひとり飲みにはありがたい。
パエリア好きにオススメなのが「アロスアバンダ(薄焼きパエリア)」(2380円)だ。ワタリガニとマダイを煮込んだ濃厚なだしが決め手になるパエリアで、だしと具材のイカ、エビのうま味が複雑に調和しワインに良く合う逸品だ。添えられた自家製のアイオリソース(ガーリックマヨネーズ)を乗せると、さらに味に深みが出る。筆者は平らげてしまったが、こちらは2~3人前なので、グループ時に注文したい。ワインはグラスで480円から、ボトルは3千円からなので気軽に使えそうだ。
花屋のショールームとバルの組み合わせはなぜ生まれたのか――。もともと同店は上田氏の奥様が営む花屋「juuri」だった。juuriが提供するフラワーアレンジメントは仕上がりが良く、近隣のオフィスや店舗からの引き合いが多い。しかし、花店を一人で切り盛りしていたので、配達中は店を閉めることになり、機会損失になっていた。
当初、上田氏はバル業態なら東京・下北沢や渋谷周辺への出店を考えていたが、花店の現状を聞き、現在の業態で立ち上げた。今は店舗で生花の販売は行わず、ショールームとして注文のみ受け付ける。ソンリサのお客が店内のアレンジメントを見て、生花を注文することも増えている。
店内を飾るドライフラワーや生花は、花店の在庫をやりくりすれば予算をかけずに店内を飾れる。いわば一石二鳥というわけだ。
上田氏からは、食材や調理技術だけでなく、かなりの経営センスの持ち主だと感じた。「実は共同経営店での失敗から、数年かけて飲食店経営の『数字』についての勉強をした」と上田氏。開業に当たりコンサルと相談して徹底的に「融資してもらえる事業計画書の書き方」を学んだ。同店の開業資金は金利1%の公的資金を利用できた。
以前紹介したコインランドリー&カフェもそうだが、今後は異業種コラボの飲食店が増えると感じる。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2019年10月25日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。