部下の健康管理に腐心 顔色で進捗状況の把握もブラザー工業社長 佐々木一郎氏(上)

課長になる前は「むちゃくちゃな働き方」をしていたという
課長になる前は「むちゃくちゃな働き方」をしていたという
■ブラザー工業の佐々木一郎社長(62)は1995年、レーザープリンターのソフトウエアなどを開発する部署の課長に就いた。

非常に困ったというのが当時の正直な気持ちでした。それまでは技術者としての自分が世界でどこまで通じるか考えながら必死で仕事をしていました。仕事に熱中しすぎて体調が悪くなると3~4日休むといった、むちゃくちゃな働き方をしていたからです。

管理職は部下の育成や健康管理が仕事なので、自分が倒れてはいけません。まずは休まないことが仕事でした。困難な技術課題に率先して取り組むのが私のやり方でしたが、技術的な好奇心をグッとこらえて早く帰るようにしました。一方、徹夜や休日出勤した部下には差し入れをして労をねぎらいました。

■部下とのコミュニケーションに気を使う。

プリンターで文書を印刷する際、文字の位置やフォントの大きさ、濃さ、向きなどをソフトで整えます。難しいソフト開発は成果が出るのに2~3カ月かかります。機械の開発は図面などで途中経過が一目で分かりますが、ソフト開発はそうはいきません。難しい仕事はうまくいかないと孤独を感じます。

ささき・いちろう 83年(昭58年)名大院修了、ブラザー工業入社。14年取締役常務執行役員。18年6月から現職。愛知県出身。

あるとき、納期の直前に部下から間に合わないと打ち明けられました。色々手を尽くしましたが、どうにもなりませんでした。責任感の強い人ほど自分から言い出せず、最後まで頑張ろうとします。しかし、手の打ちようのない局面でトラブルを相談されるのはマネジメント側の負けです。

その一件を猛反省し、早い段階からトラブルを見つけるようにしました。まず部下が出勤すると必ず全員の顔つきを見ました。困っている人ほど表情が曇っています。声をかけたときの返事も重要な情報です。順調な人は声が弾んでいますが、そうでないと返事に元気がありません。どうすれば相手が気軽に打ち明けられるか考えながらコミュニケーションを取りました。

■他部署との情報共有に力を入れた。

コールセンターに寄せられるお客様の困りごとや競合の製品情報などを社内で共有するのが大事だと考えました。当時は米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ95」が登場し、メールが普及し始めていました。そこでメーリングリストを作り、関係部署で共有しました。

メーリングリストには毎日のように情報を送りました。他社の製品や技術情報は隙間時間に読んだ国内外の専門紙を要約し、伝えました。メールが多いとの苦情もありましたが、部署をまたいで議論の土台ができ、品質の大切さをより理解してもらえるようになったのです。

あのころ

ブラザー工業は1994年、同社初となる完全内製したレーザープリンターの生産を始めた。低価格化に成功し、399ドルで米国市場に投入した。それまでのレーザープリンターは大企業が主な顧客だったが、低価格化が進んだことで店舗にも裾野が広がるきっかけとなった。

[日本経済新聞朝刊 2019年10月22日付]

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