加齢や認知症と誤解されることも 薬の副作用の注意点脱・多すぎる薬(下)

2019/10/9付

何種類もの薬を併用する高齢者で物忘れが激しくなったりふらついたりといった悪影響が出る問題へ、医療関係者の取り組みは始まってきた。ただ高齢者本人や家族が薬の影響と気づかず、加齢の影響や認知症などと間違われることも少なくない。生活の中でどのような症状に注意したらよいのだろう。

「薬はなるべく5種類まで。飲み残しの多い人は見直したほうがよい」。高齢者の医療に詳しい東京大学の秋下雅弘教授は注意を促す。高齢者が多くの種類の薬を飲むことで起きやすい副作用は幅広い。例えば血圧を下げる降圧剤や睡眠薬を飲んでいる高齢者では、ふらついたり転倒したりといったことが起きやすくなる。

東京都内の診療所に通う高齢者を対象に薬の数と転倒の関係を調べた研究では、5~6種類の薬を服用する患者の約4割が転倒。4種類以下の患者が転倒した割合は2割以下で、5種類を超えると急に転倒する割合が高くなっていた。「血圧が上がると脳梗塞のリスクは上がるが、下げすぎるとふらつく。この1年を快適に過ごせるかが大切」(秋下教授)

ふらつきや転倒だけではない。飲んでいる薬が6種類を超えると、6人に1人の割合で様々な副作用が起きるとする研究もある。

糖尿病の治療薬や降圧剤などを飲んでいる患者では、物忘れが激しくなったり記憶障害が起きたりしやすくなる。心不全の薬などを使っていると、元気がなくなり抑うつ症状が起きる場合もある。薬の飲み過ぎで食欲不振や下痢になるといったことも起きる。

薬の種類が多すぎて起こる体調の異変に気づくことが大事(写真はイメージ)

これらの副作用は認知症と間違えられたり、単に年をとった影響と見逃されたりすることも少なくない。こうした症状が続くなら薬の飲み過ぎを疑うことも必要だ。

副作用が起きやすくなるのは、高齢になるにつれて薬の効き方が変わってくることも大きい。「体質も変わり、腎機能の低下で量が多いと効き過ぎる」と秋下教授は説明する。

持病が増えてくると以前と同じ薬を使い続けてよいか再検討が必要な場合もある。例えば高血圧の治療薬に「ベータ遮断薬」という種類がある。ところが、高齢になってから発症が増える肺の病気のひとつである慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療には、ベータ遮断薬と反対の働きをする治療薬が使われる。両方を同時に飲むと互いに効果を打ち消し合うので、COPDの治療を始めたら高血圧の治療薬を別の種類に変えなければならない。

心配なのは飲み合わせによる副作用だけではない。薬の種類が増えると、薬を飲むタイミングを間違えたり、必要な薬を飲み忘れたりする心配も出てくる。

薬を飲むタイミングは食前や食後、就寝前など多様で、一日に何回飲むかも薬によって異なる。「いろいろな医療機関からバラバラに薬を出されると、いつどの薬を飲んだら良いか混乱しがち。どの薬が優先かわからず、大事な薬を間引くことも起きる」と秋下教授は指摘する。種類を減らすだけでなく、薬の内容を見直して飲むタイミングを夕食後にまとめるなどの工夫も必要になってくる。

薬の交通整理をして副作用をさけるには、お薬手帳にまとめて使っている薬を記録する方法もあるが、活用されているとは言いがたい。いつでも医療機関に見せられるよう「お薬手帳や検査データを診察券などとまとめて1つのケースに入れておくのもよい」(秋下教授)。

ただ、どの薬を優先すべきかを、患者や家族が判断するのは危険だ。「薬をやめるときは自己判断で決めずに、医師や薬剤師に必ず相談してほしい」と秋下教授は話している。

◇  ◇  ◇

ガイドラインの活用を

厚生労働省の社会医療診療行為別統計によると2017年に同一の保険薬局で調剤された薬の種類数は、75歳以上では7種類が24.5%、5~6種類が16.3%と合計で40%を超える。65~74歳でも7種類以上と5~6種類の合計で27.9%と3割近い。

多すぎる薬の使用は「ポリファーマシー」と呼ばれ、厚労省も指導指針をまとめるなどして対策を進めている。日本老年医学会は75歳以上の高齢者を対象に「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」で、特に慎重な投与を要する薬物のリストを掲載。そのなかには睡眠薬やうつ病の薬、脳梗塞や心筋梗塞の予防に使われる抗血栓薬、糖尿病治療薬など高齢者によく使われている治療薬も少なくない。家族と一緒に確認してみるのも手だ。

(編集委員 小玉祥司)

[日本経済新聞夕刊2019年10月9日付]