音楽とアロマで癒やしの夜空 今どきのプラネタリウム
これがプラネタリウム? 夏も終わり、星がきれいに見えてくる季節。記者(57)が最新のドームに足を運ぶと、音楽や香りを駆使した癒やしの空間に様変わりしていた。
小惑星探査機「はやぶさ2」など天体ブームを背景にプラネタリウムのリニューアルが相次いでいる。9月中旬の月曜午後。東京都千代田区の有楽町マリオンに昨年12月開業した「コニカミノルタプラネタリア東京」は、若い女性とカップルであふれていた。
投影ドームは2つ。ドーム1は英ロックバンド「クイーン」のコンサート映像まで映すイベントスペース。ドーム2は星空映像がメインの比較的オーソドックスなプラネタリウム。「天の川 アイランド・ヒーリング」のテーマにひかれてドーム2を選んだ。
記者は高校時代、仲間と文化祭でプラネタリウムを手作りしたことがある。竹と模造紙で直径約3メートルのドームを作り、ピンホールカメラの原理で北斗七星などを投影し、悦に入っていた。その目にはプラネタリア東京は異世界だ。
ドーム2に映し出された星空は、東京から約360キロメートル南に離れた孤島、青ケ島のもの。記者の興味は、1990年代前半までは、薄暗いもやのようにしか再現できなかった天の川に向かった。
ドーム2の機材はコニカミノルタプラネタリウム(東京・豊島)の「Cosmo LeapΣ」。星座を形作る恒星は6.5等星まで9000個投影と従来機と差はないが、天の川は25万個のドット(点)で表現する。鮮明な天の川がたゆたうように天空を移動する様子は見事だ。
上映手法のソフト面の変貌にも驚いた。穏やかな音楽が流れる星空映像の途中に、緑の島の全景や自然の映像がそっと挟み込まれる。星にまつわるラブストーリーが語られ、ユリの花のアロマ香が立ち上る……。「癒やしの場として特に都会で働く若い女性向けに構成した」(同社企画グループの佐野大介氏)。
座ったのは寝いす席の銀河シート(2300円)。1時間弱のプログラム後半、隣からは軽い寝息も。2人用も6台あり、5台はカップルで埋まっていた。開業9カ月で30万人の入場者だそうだが、天の川の解像度を気にしていたのは記者だけかもしれない。
プラネタリア東京を出て、原点に戻りたくなった。向かう先は国内最古、60年導入の機材が現役を張る明石市立天文科学館(兵庫県明石市)。東ドイツ製、重さ2トンの機材は阪神大震災にも耐えた。2つの球形投影部を備えた昆虫のような外観は、アポロ11号の月面着陸(69年)をライブで見て、当時の宇宙ブームを知る目にはいとしく感じた。
地平線部分に黒い切り絵表現で明石市の町並みが表現され、上空に星々がシャープに投影される。学芸員が1日5回「生解説」し、途中で江戸時代の日本の星座図が重ねて映示される教育的側面も、公営施設らしく心地よい。驚いたのは、人口約30万人の明石市で毎年12万~13万人の入場者がいると知った時だ。
こちらも人気の秘密はソフト面の改革だ。02年から高齢者向け「シルバー天文大学」を開講し、赤ちゃんが泣き放題の「ベイビープラネタリウム」で子育て中の母親にもアピールした。井上毅館長自ら子供たちに秘密で悪役の衣装をまとい、戦隊キャラクター「軌道星隊シゴセンジャー」を盛り上げる。ネーミングは同市を通る日本標準時子午線の東経135度にちなんだ。
国内最古だけで人気は続かない。体を張って客を呼んでいるわけだ。プラネタリウムが科学教育や宇宙ブームとだけ分かりやすく結び付いた時代は過ぎ去ったのか。ショーアップされた星空映像を見ながらそう感じた。
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100万年後の星空まで映す
プラネタリウムの技術革新が著しい。恒星の座標をデータのある限り記憶し100万年後の星空や、他星系から見た銀河系の姿まで全天プロジェクターで生成・投影できる1990年代のデジタルプラネタリウムの普及は革命的で、表現の自由度が一気に高まった。
2000年代に入ると、新進の大平技研(横浜市)を火付け役に天の川の高精細表現を巡る競争も始まり、業界を活性化させた。今では従来型機とデジタル機を一体運営するドームも増えている。
(礒哲司)
[NIKKEIプラス1 2019年10月5日付]
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