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小さな政府か、大きな政府か 経済学の歴史から考える

2019/9/28付 日本経済新聞 朝刊

大きな政府では公共投資が膨らむ傾向に。画像はイメージ=PIXTA

複雑に枝分かれした経済学の全貌をつかむのは難しい。道に迷いそうになったとき、出発点に戻ってみるのは一つのやり方だろう。

野原慎司ら3人の専門家による『経済学史』(2019年7月、日本評論社)は、多岐にわたる学説の概略と時代背景を解説する書で、古代・中世の経済思想を起点に、古典派経済学、マルクス経済学を中盤に置き、ケインズ経済学、計量経済学、ゲーム理論、行動経済学まで網羅している。野原氏は「さまざまな経済理論の位置付けを知り、経済理論の地図を理解すると、複雑な経済現象を把握するうえでの困難を解消する一助になり、経済理論の生きた理解につながる」と説明する。

現在の主流派である「新古典派経済学」を批判する立場から経済思想の歴史を検証するのは、有江大介著『反・経済学入門‥経済学は生き残れるか』(19年7月、創風社)。労働、契約、所有、幸福、グローバリゼーション、おカネといった経済・社会を読み解くキーワードを軸に経済思想の歴史を整理し、アダム・スミスを始祖とする主流派経済学がどんな基盤の上に成り立っているのかを浮き彫りにする。例えば「労働」の章では、「労働が苦痛で避けるべきものだという考え方は、経済学を生み出した西欧思想の中にはじめから存在している」。こうした歴史の確認は「日本やアジアの伝統的な価値観や考え方とは異なる現代の経済学のあり方を、私たちアジアの人間が理解する上で避けて通ることができない」と唱える。

荒谷大輔氏は『資本主義に出口はあるか』(19年8月、講談社現代新書)で、社会契約論で知られるジョン・ロックとジャン・ジャック・ルソーの思想を対比させ、近現代の社会では、機会の平等、小さな政府を志向する「ロック的」な局面と、結果の平等、大きな政府の「ルソー的」な局面が循環してきたとの見方を示す。個人の所有権を認めるロックの議論に、アダム・スミスは人々の「共感」という概念を導入して経済と道徳との両立を可能にし、2人の議論をリカードが体系立てた理論が経済学の原型になったという。

経済学史は、草創期から変わらない経済学の骨組みを照らし出し、さまざまな衣装をまとう現代経済学とどう付きあえばよいのかを教えてくれる。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2019年9月28日付]

経済学史 経済理論誕生の経緯をたどる

著者 : 野原慎司, 沖 公祐, 高見典和
出版 : 日本評論社
価格 : 2,970円 (税込み)

資本主義に出口はあるか (講談社現代新書)

著者 : 荒谷 大輔
出版 : 講談社
価格 : 990円 (税込み)

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