映画『お嬢ちゃん』 世界へのふつふつとした怒り
いま自分が生きている世界に対するふつふつとした怒り――。作家を創作に駆りたてるのは、それではないか。「枝葉のこと」で注目された二ノ宮隆太郎監督の映画は、退屈な日常を描きながら、確実にそれがある。新作も例外ではない。
鎌倉の浜辺。若い男3人に、2人の女が詰め寄る。みのり(萩原みのり)はリーダー格の男に近づき「あんた、この子に何したか覚えてないの?」と問い詰める。親友の理恵子が合コンで嫌な思いをしたのだ。すごむ男に一歩も引かず、まくし立てるみのり。「もういいよ」と止める理恵子を振り切り、男の尻を蹴る。
みのりの怒りは収まらない。「もういいよって何なの」「どうしたかったの」と理恵子を詰問する。ただ困惑する親友を見ると反省し、バドミントンに誘う。
みのりは21歳。祖母と2人暮らし。高校卒業後は進学も就職もせず、鎌倉の甘味処でアルバイトしている。亡くなった父を憎んでいるが、何があったのかはわからない。ただ祖母や叔母のお節介にはいら立つ。
鎌倉の日常は退屈だ。バイト先の男性客の会話はくだらない。女性客の噂話は不愉快だ。親友は相変わらず煮え切らない。一度寝ただけの男には侮辱され、怒りを爆発させる……。
「どいつも、こいつも、くだらない」。みのりの怒りはもっともだ。若者たちの会話はどれもくだらない。そのくだらなさがえらくリアルだ。ワークショップで集めた俳優たちの生々しい声を二ノ宮が引き出し、ワンシーンワンカット撮影が効果をあげている。
気の強いみのりは何事にも筋を通し、世界と折り合えない。ただ祖母や親友の優しさを感じ取り、自分を見つめる時もある。そんなアンビバレントな魅力を萩原が体現している。前作まで自ら出演してその怒りを表現した二ノ宮だが、演出家としての才能も非凡だ。2時間10分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2019年9月27日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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