広がる街の車・自転車シェア 掃除やメンテは誰がする
都市部中心に車や自転車のシェアが広がっている。所有せずに、いつでも乗れる手軽さが売りだ。でもふと気になった。借りるのも返すのも無人のスポット。サービスはどのように成り立っているのか。シェアの裏側を探った。
9月のある平日夕方、東京・豊洲の駐車場に菊地洋平さんが現れた。菊地さんは青いベンツの前に立つとボンネットを開けて、エンジンルームの点検を始めた。ウオッシャー液の残量やエンジンオイルの確認作業だ。
車のオーナーではない。三井不動産リアルティが運営する大手カーシェアリングサービス「カレコ」のメンテナンス担当。こうした作業を1台ごとに10日に1度、平日に実施する。
車内外でワイパーが動くか、ライトの電球が切れていないかなどを確認する。続いて、タイヤの空気圧をチェック。点検を終えると、車内清掃に移る。シートを拭いてマットのホコリを取り、消臭剤を噴く。窓ガラスを内側まで拭いて、良好な視界を確保するという。
たまに「置き忘れた買い物袋を発見することもある」と菊地さん。一連の作業が全部で30分ほど。その後、ガソリンが半分以下になっていれば、スタンドへ給油しにいく。
車内にはウエットシートなどの清掃キットを置いており、利用者には車両返却時に簡単な清掃を求めている。備え付けのカードを利用して洗車をすれば、次回以降の利用料を割り引くクーポンも配布。利用者を巻き込む形のメンテナンスはレンタカーとの大きな違いだろう。
喫煙やペット同乗は禁止だ。だが、まれにルール違反もある。次の利用者から「臭いが気になった」などのクレームを受け「当事者を特定し、電話で注意を促すこともある」(同社)という。
車体にキズをつけてしまったらどうすればいいか。料金には保険料も含まれており、修理は保険でカバーできる。ただ大事故などで車が使えなくなった場合は営業補償金を支払う必要がある。これは一般的なレンタカーと変わらない。
自転車の場合はどうだろう。東京23区や大阪市などで仕事や観光の足としてシェアが普及しつつある。ポートからポートへ乗り捨て自由が基本。特定の拠点に利用が偏ることもあり、再配置が大変なはずだ。大手のドコモ・バイクシェアに再配置作業を見せてもらうことにした。
午前9時。東京都港区のあるポートに自転車をたくさん積んだ2トントラックがやって来た。自転車には全地球測位システム(GPS)機能が搭載されており、作業員はどのポートにどれくらいの台数があるか端末でチェックしているという。作業員2人が1台しか残っていなかったポートに、あっという間に20台ほどの自転車を下ろした。
手早くタイヤやブレーキの状態を確認している。走行に支障が出るキズがないかも確かめる。自転車は電動アシスト機能付きだ。バッテリーの充電率が3割を切る場合は、充電ずみのものと交換。10分ほどで作業が終わると、作業員は次のポートへ向かった。
作業は委託先が24時間365日、三交代制で請け負っている。これを支えるのが人工知能(AI)だ。ドコモは2011年の事業開始以来蓄積してきたデータを効率的な再配置に活用する。天気や人口動態データと掛け合わせ、最適な回収台数や配置先をはじき出す。
ただ自転車を再配置する作業は「人力に頼るしかない」(同社経営企画部の山口恵さん)。便利なシェアサービスは、裏で地道な作業を担う人たちがいてこそと実感した。
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カーシェア 抵抗ない人増加
共有することに抵抗がない人が増えている。カーシェアは車両数、会員数ともに拡大が続く。ドコモ・バイクシェアも登録会員数が59万人(6月末時点)に増えた。タイムズ24が運営するタイムズカーシェアは「安全点検・清掃は10日から2週間に1度」。オリックスカーシェアを運営するオリックス自動車は「月3回の頻度で車内を清掃している」と話してくれた。安心して利用できるという信頼感と利用者のマナーの高さが相まって、普及を後押ししている面もあると感じた。
(天野由輝子)
[NIKKEIプラス1 2019年9月28日付]
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