それからは「フォワーディングは貨物の旅行業者」という認識を持つようになった。貨物なら置いて行かれても傷つけられても文句を言うことはないが、これが生身の人間なら大問題だ。「自分がされて嫌なことは荷物にもしないようになった」

周囲は老沼さんを「懐に入るのがうまい」と評する。相手の考えを数パターン想定して営業に臨み、わずかな表情の変化やしぐさを読み取りながら対話して信頼を勝ち取ってきた。この観察力はハンドボールに打ち込んだ大学時代に身に付けた。体力には自信があったが、部内で唯一の未経験者。差を埋めるため「毎日チームメートや対戦相手のプレー動画を穴が開くほど見続けた」。

社内にもファン

懐に入る力は社内でも発揮する。毎週月曜日に社内の知人にメールマガジンを配信する。気になったニュースやカップ麺の好みのランキングなどをコンパクトにまとめる。現在約200人が登録しており、社内の口コミでじわじわとファンを増やしているという。普段の業務では付き合いのない人とも人脈が生まれ、プロジェクトの立ち上げや困ったことがあると助け合う。

郵船ロジは現在、営業スタイルの改革に取り組んでいる。個別の産業に対する知識量で競合に後れを取らないためにも、担当者を地域単位から産業単位に切り替えつつある。競合との差は簡単には縮まらないが、老沼さんのチームは、大手航空会社向けに航空機エンジンの航空輸入代行の契約を勝ち取った。

目を付けたのが荷主もエンジンの航空輸入が初めてだったことだ。航空会社の輸入代行の入札はサービスのパッケージと価格で決まることがほとんどだが、荷主から不安点を聞き出し、想定されるリスクは包み隠さず伝えた。その結果、「ここまで深く話したのは郵船ロジだけ」との言葉を引き出した。「価格でなくサービスで勝ち取った」。老沼さんは自らの営業スタイルに手応えを感じている。

(吉田啓悟)

おいぬま・ゆうた
 2010年に郵船航空サービス(現郵船ロジスティクス)入社。通関業務などを経て、12年から現在まで一貫して営業畑を歩む。現在の担当は自動車や航空・宇宙産業。

[日経産業新聞2019年9月25日付]

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