映画『宮本から君へ』 身体の躍動、一途な愛
社会的な存在としての身体を暴力的に昇華させた前作「ディストラクション・ベイビーズ」に続く真利子哲也監督の新作。熱血サラリーマンを主人公にした漫画の映画化であるが、主人公のストレートな熱い恋心を描き出している。
文具メーカーの営業マンとして働く宮本(池松壮亮)は、何事にも馬鹿(ばか)正直にぶつかっていく熱血漢。そんな宮本が年上の靖子(蒼井優)と恋に落ちる。彼女には腐れ縁の元彼の裕二(井浦新)がいるが、今なお靖子に近づく裕二に対して、宮本は彼女を必ず守り抜くと言い放つ。
ある日、取引先の部長に誘われ、靖子と一緒に参加した宮本は泥酔して、部長の息子の拓馬(一ノ瀬ワタル)に車で靖子のアパートに送ってもらう。ところがラグビーで鍛えた巨漢の拓馬は、ベッドで眠り込む宮本の傍らで靖子に暴力的に襲いかかる。
物語はサラリーマンの恋愛を描いた青春ものであるが、その肝は、主人公が正義感の強い真っ正直な男であること。靖子から拓馬のことを聞いた宮本は、拓馬に喧嘩(けんか)腰で立ち向かい何度となく殴り倒されながら挑み続ける。
その極みがマンションの非常階段での喧嘩シーン。体格的には見劣りする宮本が何度も跳ねのけられ、顔面血だらけになりながらも拓馬に必死で喰(く)らいついていく姿には、近年忘れさられがちな「死にもの狂い」という生き様を体現して感動的ですらある。
ここには主人公を演じた池松壮亮の熱演もあるが、真利子監督の面目躍如の感がある。前作もそうだが、「極東のマンション」など自主製作時代から身体的な躍動が監督の描く世界の核になっているからだ。
そんな俳優たちの身体性を物語に巧みに取り込む演出を通して、宮本による靖子への一途(いちず)な愛をうまく描き出して味わい深い。2時間9分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2019年9月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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