女性演芸ユニット開花 落語や講談、男装の殺陣に拍手
演芸界で女性がユニットを組んで活動する例が増えている。古典落語から男装劇まで活動は多彩。女性だからという珍しさではなく、本当の個性で勝負したいという熱い思いがある。
舞台に立つのは、伝統芸能を演じる女性5人の男装ユニット「輝美男五(きびだんご)」。りりしい袴(はかま)に身を包んだメンバーが歌って踊って演技をしながら、それぞれの持ち芸を披露していく。
「おーい、何食ってんの?」。昔話の桃太郎をアレンジした芝居で、キジに扮(ふん)した講談師の一龍斎貞鏡がそう尋ねると、桃太郎、犬、猿役の3人はいっせいに「きびだんご!」。すかさず猿役の落語家、林家つる子が「そうだ。俺、きびだんごで面白い話あったんだ」と古典落語「味噌豆」を語り始める。
殺陣から話芸、曲芸まで、様々な出し物をノンストップで繰り広げる総合エンターテインメント。300人のホールを埋めた観衆からは「かっこいい!」と大きな拍手が沸いた。
女性客増やしたい
「誰も見たことがないものがやりたかった」とつる子は強調する。2年ほど前、太神楽曲芸を演じる鏡味味千代(かがみみちよ)が黒紋付き姿のつる子に「かっこいいね」と声をかけたのが結成のきっかけ。「男装したら面白いかも」と2人で盛り上がった。男装が似合いそうな貞鏡、落語家の立川こはると春風亭ぴっかり☆に声を掛けてみると、とんとん拍子に話が進み、2018年10月に旗揚げ公演を開く。
「女性客を増やしたいという思いもあった」とつる子。通常、寄席や落語会は中高年の男性が大半を占める。宝塚歌劇や男装アイドルは熱心な女性ファンが多いため、男装なら女性を呼び込めるのではとの狙いが的中した。半分近くが女性客だ。
コミカルなつる子、妖艶な味千代、大人AKB48のオーディションを受けたこともある童顔のぴっかり☆、ボーイッシュなこはる、親子三代講談師で端正なたたずまいの貞鏡と多彩なキャラクターを発揮する5人。次回の公演は25日、なかの芸能小劇場(東京・中野)で開く。
落語界は昔から男社会。東京では1993年に三遊亭歌る多と古今亭菊千代が女性初の真打ちに昇進したが、現在でも女性は1割に満たない。
17年末、春雨や雷蔵門下の春雨や風子が取りまとめ役となって「女性落語家の知名度を上げたい」と発足したのが「落語ガールズ!」だ。落語協会、落語芸術協会、立川流の若手15人で構成する。月2回、ミュージック・テイト西新宿店(同・新宿)で落語会を開き、4月からはラジオのレギュラー番組「落語ガールズ!」に出演し、大喜利などを披露している。
8月27日の落語会には風子、川柳つくしら4人が登場。古典からジャニーズを題材にした新作まで、個性豊かな話芸で笑いを誘った。仲入り前には全員が高座前に並んで楽屋話をぶっちゃけるトークコーナーも。来場した40代の男性会社員は「女性落語家は古典でも言葉や語り手をアレンジする。それぞれの持ち味が出て面白い」と語る。
同性で切磋琢磨を
「ラクジョ」は落語協会の若手5人によるユニットだ。14年、三遊亭美るくと一緒に「姉妹の会」をやらないかと持ちかけられた三遊亭粋歌が「同じ協会で年次の近い女性ユニットにしたい」と発案して始まった。年4回、落語会を開く。
「女性同士が切磋琢磨(せっさたくま)する場を作りたかった」と粋歌。落語はもともと男性の演者を想定しているので演じるには工夫も必要だ。「ネタの選び方や言葉遣い、艶っぽい廓(くるわ)話の演じ方など、他の女性の高座は刺激になる」と語る。
ここ10年ほどで女性落語家は徐々に増え、以前ほど特別視はされなくなった。芸そのもので評価される土壌が整ってきたといえる。それぞれが個性を発揮しようと知恵を絞り、芸を磨きながら様々な挑戦を始めている。
(佐々木宇蘭)
[日本経済新聞夕刊2019年9月17日付]
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