器で引き立つ秋の味覚 どんな料理にも合う「粉引」
秋の根菜の煮物やサンマなどの焼き魚は見た目が地味。器選びや盛り付け方を変えるだけで、気分が高まるという。ひと工夫して、秋の味覚を存分に味わおう。
まずはマルチに使える器をおさらい。フードスタイリストの江口恵子さんが「どんな料理にも合う」というのは粉引(こひき)の器だ。粉引は白く加工をほどこした陶器で、白い釉薬(ゆうやく)のかかり具合で素地の土色が透け、やわらかく、温かみのある白さが特長だ。
黒使いやすく 秋冬もガラス
日本の家庭の食卓は和食だけでなく洋食、中華、エスニックと様々なジャンルが並ぶが、「粉引の器は料理のジャンルを問わない」と江口さん。洋食器や派手な柄などテイストの違う器ともなじみやすい。「取り皿、大皿として使え、直径18~21センチメートルの大きさが重宝する」(江口さん)
確かに、白い器は使いやすく、頼りになる。しかし、肉汁などドリップが出たり、ソースをかけて仕上げたりする料理は汚れて見えることも。
テーブルコーディネーターの進藤由美子さんは、和洋食ともに使いやすいとして藍色や青い絵柄のものを挙げる。「染付の和食器はサンドイッチやパスタ、葉物のサラダなどの西洋料理も驚くほど合う」(進藤さん)
意外かもしれないが、黒も使い勝手がよい。「黒い器は料理を引き立て、粗を隠してくれる。地味な料理ほど映える」というのがその理由だ。淡い色味のポテトサラダや天ぷら、くだものなどは艶やかに。明暗の差が大きい白い料理、豆腐料理、白あえ、ポタージュも映える。
▼器選びのポイント▼
色合わせで悩んだときは「色鮮やかな料理には淡い色、色が薄い料理には暗い色を意識するといい」と進藤さん。料理に彩りが足りないと感じるときは「明るい柄入りの器に盛り、色味を加えて」とアドバイスする。
大振りの柄や派手な色の器は、無地やガラスの器と合わせると食卓に統一感が出る。または、取り分け皿や小鉢の色のトーンをそろえる。一方、四角い皿や菊の花の形など、形が特徴的な器は、単調になりがちな食卓が新鮮に。小さい豆皿もあれば、器を選ぶ楽しみが増える。
器の機能性も考えたい。温かい料理は赤など暖色の器や冷めにくい陶器に。冷たい料理は、涼やかに見えるガラス器を使う。
ただ、江口さんは秋冬にもガラス器をよく利用するという。透明なガラスは料理がサイドから見えたり、素材の色を引き立たせたりする楽しさがあるからだ。「陶器皿にガラス器を重ねて使うと、料理を華やかに見せつつ、冬の食卓にもなじむ」
量や高さなど 盛りつけ工夫
料理をおいしく見せるには、盛り付けにもコツがある。江口さんが挙げるのは3つ。1つ目は「器に対して8分で盛る」。控えめに料理を盛るだけで、器の余白が料理を引き立てるという。とくに柄物の器は6分程度に。柄が映え、上品に仕上がる。
2つ目は盛り付けに高さを出すこと。具材を中央に寄せ、山の形にする。それぞれの具材が見えるように散らすとより豪華に。彩りが少ない料理や散らしてもまとまらなくて悩むときは、具材ごとにまとめてもいい。テーブルコーディネートで大事なのは高低の立体感だ。進藤さんは「料理を盛って高さを出したり、足つきの高皿に乗せたり。料理が並んだときにおいしくみえる」と説明する。
最後は、料理を盛った後、手直しすること。例えば、鍋から取り分けるときに、器が汁などで汚れたらふき取る。
実は、和食と洋食では、美しく見せる盛り付け方が違うという。「和食は非対称で立体的に。洋食は左右対称に平たく」(江口さん)が基本だ。
焼き魚は皿に対して少し斜めに置く。添え物は片方に寄せて、非対称にする。煮物やあえ物、酢の物などは、香りのものを小高く盛りつけるといい。刺し身などべたっとした盛り付けになりがちな料理では、大きな素材を奥、小さなものを手前に。奥を高く、手前を低く盛るのがコツだ。
反対に、ハンバーグなどの洋食は平皿に均等に盛る。ニンジンやジャガイモなどの添え物は、同量ずつを意識するとバランスよくまとまる。
料理の腕はそのままでも、器選びや盛り付け方で、よりおいしく見せることができる。食欲の秋を満喫しよう。
(ライター 児玉 奈保美)
[NIKKEIプラス1 2019年9月14日付]
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