採れたての香り、風味いかす工夫 長岡の枝豆スイーツ
新潟県長岡市は県内指折りの枝豆産地だ。毎年7月には「世界えだまめ早食い選手権」というユニークな大会が開かれ、知名度も上がりつつある。それに歩調を合わせるように、地元の枝豆を使ったスイーツや料理の種類が増えてきた。枝豆の香りに引かれ、市内の飲食店を訪ねた。
長岡駅から徒歩10分余り。街中の一角にフランス菓子店のダンファンはある。オーナーの坂田修次さん(70)が考案したのが「枝豆入りクレーム・シブーストサンド」だ。自慢のカスタードとイタリアンメレンゲを混ぜ合わせて砕いた枝豆を加え、さくっとした食感のビスキュイで挟んだ。甘さは上品で香りもいい。
坂田さんはかつて、ホテルのパティシエとして欧州で腕を磨いた。地元長岡の出身というだけあって「夏場の野菜といえば枝豆が思い浮かぶ」という。鮮度を重視し、地元の農家から枝豆を直接仕入れる。「冷凍庫で冷やし、アイスクリーム感覚で食べてもらうのが、この菓子のコンセプト」と笑顔で話す。
同じく街中にある老舗ベーカリー、フクセンドーでは7月から「えだまめフランスパン」がメニューに加わった。4代目店主の渡辺公晴さん(45)は「肴(さかな)豆」という品種を使う。長岡在来の枝豆で、ゆでていると隣家まで香りが届くといわれるほど風味と甘みがある。
「パン生地に枝豆をじかに練り込もうとすると、豆がつぶれてしまう」と開発時の苦労を語る渡辺さん。「発酵させる際に生地を折り畳む過程があり、その段階で壊れないように混ぜるようにした」
ずんだ餅「お茶豆(ちゃめ)もち」は老舗和菓子店、江口だんごの逸品だ。ずんだ餅はすりつぶした枝豆をあんにした餅菓子のことで、宮城県の和菓子店で作り方を学んだ。お茶豆もちには香りがいい新潟市の黒埼茶豆を使っている。県産コシヒカリと長岡産の枝豆を使った「ずんだ串だんご」も店頭に並ぶ。
にいがた方舟(はこぶね)ホテルメッツ長岡店には「枝豆の冷製スープ」がある。スライスしたタマネギをかつおだしで炊き、白味噌と牛乳、豆乳を足し、すりつぶした枝豆を入れる。鮮やかな色のスープで枝豆のうまみと香りを楽しめる。料理長の森本哲央さん(49)は「長岡は枝豆産地。朝採れたばかりの鮮度のいいものが手に入る」と話す。
これらは主に枝豆が収穫される夏場が中心のメニューになる。ただ、枝豆を急速冷凍して保存する江口だんごは、お茶豆もちなどを一年を通して提供している。枝豆の香り、風味を生かそうとする職人や料理人それぞれの、創意工夫とこだわりが熱く伝わってくる。
新潟県は枝豆の作付面積で全国トップ(2017年)だ。農林水産省によると、08年から首位が続く。県内では新潟市の「黒埼茶豆」などが有名で、これらに比べてまだ知名度が低い長岡市の枝豆産地を盛り上げようと、若手農家を中心に16年に始めたのが「世界えだまめ早食い選手権」だった。
3人一組で出場する団体戦の応募は今年500人を超えた。7月20日の大会では、出場者の出身地が北は山形県から南は兵庫県まで広がった。フランスやスリランカの出身者もいて、国際色が豊かになってきた。
(長岡支局長 磯貝守也)
[日本経済新聞夕刊2019年9月12日付]
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