「もしもの時」はポリ袋でお湯ポチャ調理 鍋底には皿
管理栄養士 今泉マユ子
先日ぎっくり腰を発症し、治るまでに8日間かかった。つえをついて腰を曲げつつなんとか歩けたものの、荷物を運べないため買い物するのは難しい。強い痛みが治まるまでは、家にあるもので過ごすことになる。
もしもの時を想定して我が家では普段からたくさんの食品を備蓄している。ただ、腰に痛みを抱えながらの調理作業は苦痛でしかない。フライパンやお鍋は重くて持てない。洗い物を減らすため、包丁やまな板もなるべく使わないよう工夫しながら過ごした。
私は東日本大震災をきっかけに災害時の食事を研究しており、材料をポリ袋に入れてもむだけで作るレシピをオススメしている。これがぎっくり腰の最中も重宝した。椅子に座ったまま作れるうえ、完成後は袋ごと器にのせて食べれば皿洗いも不要になる。
一般的にはパッククッキングやポリ袋調理とも呼ばれる方法だが、私は温泉でゆらゆら温まっているイメージから「お湯ポチャレシピ」と名付けた。高密度ポリエチレン製ポリ袋の中に材料を入れ、なるべく空気を抜いてから口をしっかり結んで湯せんすると、温かい料理が出来上がる。
大切なのは、鍋底の熱でポリ袋に穴があかないように、皿を1枚鍋底に敷いて加熱することだ。ご飯を炊く場合は、高密度ポリエチレン製ポリ袋に無洗米1合と水1カップを入れ、空気を抜きながらねじり上げて袋の上部を結ぶ。鍋に深さ3分の1~2分の1まで水を入れ、皿を沈めてから袋を入れて点火する。沸騰したら20分間火にかけて、10分間蒸らすとおいしいご飯の完成だ。
同じ方法でごはんとおかず、汁物の材料をそれぞれポリ袋に入れて、1つの鍋で同時に作ることができる。缶詰やパックご飯はそのままお湯ポチャが可能だ。水やお湯は繰り返し使える。コンロの上に水を入れた鍋を常に置いておけば、毎食ポリ袋に材料を入れるだけで手間なく時短で温かい食事を用意できる。炊飯器や鍋を使うと洗い物が大変だが、お湯ポチャレシピだと洗い物が出ないので助かった。
お湯ポチャレシピは災害時に限らず、ぎっくり腰をはじめあらゆる"非常事態"の助けになると身をもって知った。平時の健康なときから何度か作って慣れておくと、思わぬ災難が降りかかったときにも大いに役立つ。穏やかな日常でない時こそ、温かい料理を最小限の手間で作って食べることがかなえば、身も心もホッと落ち着くはずだ。
1969年生まれ。管理栄養士として企業の社員食堂、病院や保育園に勤務。缶詰やレトルト食品を使った時短レシピのアレンジのほか、防災食アドバイザーとしても活躍。
[日本経済新聞夕刊2019年9月10日付]
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