『ブルー・オーシャン戦略』 付加価値経営へ転換促すライオン会長 浜逸夫氏

浜氏と座右の書・愛読書
浜氏と座右の書・愛読書
長く身を置いた研究開発部門で人事を担当することになる。門外漢の仕事に戸惑った。人と組織。どう向き合えば活力ある職場が作れるのか。3年ほどたち、40代半ばの時にある本が目に留まった。
はま・いつお 1954年東京生まれ。77年早稲田大学理工学部卒。ライオン油脂(現ライオン)入社。技術、研究畑を長く歩み、2012年社長。19年に現職。

『ハーマンモデル』です。ゼネラル・エレクトリック(GE)の能力開発センター長だったネッド・ハーマン氏が開発した、組織改革の指南書です。ノーベル賞学者のロジャー・スペリー氏などの大脳生理学の研究をもとにビジネス向けに分かりやすくしたものです。目から鱗(うろこ)でしたね。それまでは人材の質を同じレベルにして、それを全体で底上げすることがいい組織作りだと思っていました。この本は多様な個性をどう伸ばして、それをどのように組み合わせて組織にダイナミズムが創造できるかが分かりやすく書いてあります。何度も読み返し、1冊目はぼろぼろに。今は2冊目です。

実際にこのモデルを用いて個人の思考行動特性を数量化し、個人の能力開発や組織の活性化に役立てました。後に研究所長、事業部長、そして経営者となってもこの考え方は踏襲しています。ライオンの社是に「愛の精神の実践」という言葉があります。愚直に人々の幸福と生活の向上に寄与する社風があってこそ、ハーマンモデルの考えが機能していると思っています。

経営とは人と物事の結合だと思うようになった頃に『生物と無生物のあいだ』(福岡伸一著)と出合いました。化学系出身の自分としては化学反応以上に組織が思わぬ飛躍を遂げることを実感することができ、経営のおもしろさが分かった気がしました。

厳格なコスト管理を続け「1銭」を削る仕事をしてきたが、事業部長になると価値観が全く違う世界が待ち構えていた。「いくら値段を下げたら、どれだけ売上高とシェアが上がるか」。疑問を抱いた。

われわれ研究部門がこれまでやってきていることは何だったんだ。価格を下げたところで目先の売上高とシェアが上がりますが、長続きしません。徒労感が募るだけです。こんな競争は無意味ではないか、と。『ブルー・オーシャン戦略』(W・チャン・キムほか著)はそんな蟠(わだかま)りを溶かしてくれました。

動物や花形パフォーマーを使わないサーカスのシルク・ドゥ・ソレイユ、短距離、短時間、低価格を貫いた米サウスウエスト航空――。ある要素をなくすことで新たな価値を創造することができ、競争相手のいないブルーオーシャンを切り開くことを示しています。

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