映画『帰れない二人』 やくざな男と女の感情
ジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督の長篇(へん)10作目。前々作「罪の手ざわり」(2013年)は、英語題名をキン・フー(胡金銓)監督の名作「侠女」(1971年)の"A Touch of Zen"をもじった"A Touch of Sin"とし、武侠もの的なタッチをとり入れていたが、今回は、原題が「江湖児女」。
「江湖」は武侠の渡る世間でもあるが、現代のアウトローが生きていくところをも言い、「男たちの挽歌(ばんか)」(86年)大ヒット以降の香港映画には、題名に江湖のついたギャング映画が大量に生まれた。ちょうどそのころ中国では、闇でビデオがはいってくるようになったという。この映画でも、やくざ者たちがつどって観賞する場面がある。共産党の建国でいちど途絶えた文化を学びなおすわけか。
2001年、山西省のそれほど大きくない都市、大同(ダートン)。麻雀(マージャン)屋をやっている女と、そこにあつまる男たちから一目おかれるやくざな男のカップル。
女チャオには、いつものチャオ・タオ(趙濤)。男ビンには「薄氷の殺人」(14年)「ファイナル・マスター 師父」(15年)のリャオ・ファン(廖凡)。
精悍(せいかん)さみなぎるリャオ・ファンが、これまでのジャ・ジャンクー映画にない野獣的なにおいを発散し、この最初の章は興奮をかきたてる。香港映画の音楽もいろいろとたのしめ、親分の葬式にソシアル・ダンスを献ずる一景は笑える。
もめごとで2人は投獄され、2006年。5年の刑期を終えてチャオは出てくる。4年まえに出たはずのビンは迎えにこない。
この章のチャオ・タオは前章と別人のようで、同じ年の作「長江哀歌(エレジー)」の彼女にもどったかのように、ペットボトルで水を飲み、長江をひとりさすらう。
そして2017年、2人は、もとの大同で……。
いつもより感情の起伏がゆたかなジャ作品である。2時間15分。
★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2019年9月6日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。