映画『帰れない二人』 やくざな男と女の感情

ジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督の長篇(へん)10作目。前々作「罪の手ざわり」(2013年)は、英語題名をキン・フー(胡金銓)監督の名作「侠女」(1971年)の“A Touch of Zen”をもじった“A Touch of Sin”とし、武侠もの的なタッチをとり入れていたが、今回は、原題が「江湖児女」。

東京・渋谷のBunkamuraル・シネマほかで公開(C)2018 Xstream Pictures (Beijing)-MK Productions-ARTE France All rights reserved

「江湖」は武侠の渡る世間でもあるが、現代のアウトローが生きていくところをも言い、「男たちの挽歌(ばんか)」(86年)大ヒット以降の香港映画には、題名に江湖のついたギャング映画が大量に生まれた。ちょうどそのころ中国では、闇でビデオがはいってくるようになったという。この映画でも、やくざ者たちがつどって観賞する場面がある。共産党の建国でいちど途絶えた文化を学びなおすわけか。

2001年、山西省のそれほど大きくない都市、大同(ダートン)。麻雀(マージャン)屋をやっている女と、そこにあつまる男たちから一目おかれるやくざな男のカップル。

女チャオには、いつものチャオ・タオ(趙濤)。男ビンには「薄氷の殺人」(14年)「ファイナル・マスター 師父」(15年)のリャオ・ファン(廖凡)。

精悍(せいかん)さみなぎるリャオ・ファンが、これまでのジャ・ジャンクー映画にない野獣的なにおいを発散し、この最初の章は興奮をかきたてる。香港映画の音楽もいろいろとたのしめ、親分の葬式にソシアル・ダンスを献ずる一景は笑える。

もめごとで2人は投獄され、2006年。5年の刑期を終えてチャオは出てくる。4年まえに出たはずのビンは迎えにこない。

この章のチャオ・タオは前章と別人のようで、同じ年の作「長江哀歌(エレジー)」の彼女にもどったかのように、ペットボトルで水を飲み、長江をひとりさすらう。

そして2017年、2人は、もとの大同で……。

いつもより感情の起伏がゆたかなジャ作品である。2時間15分。

★★★★

(映画評論家 宇田川幸洋)

[日本経済新聞夕刊2019年9月6日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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