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オリエントスター 国産の機械式腕時計、手ごろ価格で

ブランド VIEWS

2019.9.10

セイコーエプソンの機械式腕時計「オリエントスター」が若者に顧客層を広げている。高精度の国産機械式ながら価格は5万円台からと、手ごろな点が人気の要因だ。月の満ち欠けを表す「ムーンフェイズ」など、機能とデザインの両面にもこだわる。旧オリエント時計の吸収から2年。競合するシチズンなどに対し、再び反撃ののろしを上げる。




■防水性や視認性を高めたスポーツコレクション

9月上旬、都内のホテルで開いた国内最大規模の時計合同提案会「ジャパンウオッチコレクション」に、オリエントスターの最新24モデルが並んだ。今回の目玉は、このうち18モデルで防水性や視認性を高めたスポーツコレクションだ。長年のファンである50代以上に加え、20~30代にも訴求する戦略だ。

1951年にオリエント時計が発売したオリエントスター。機械式時計として当初は国内を中心に展開したが、70~80年代にクオーツ式腕時計が台頭。そこでロシアや中南米地域など海外へ販売の軸足を移していった。

90年代以降になると、機械式時計はスイスメーカーが中心となり、国内販売は減少の一途をたどった。オリエント時計の業績は悪化し、債務超過にも転落。2009年には資本関係にあったセイコーエプソンの完全子会社となった。17年には部門を統合したことで、同社は事実上消滅した。

ただ、オリエントが半世紀以上培った技術は消えずに残った。セイコーエプソンの加工技術と、オリエント時計の特徴的な機械式のデザインを融合した時計の販売に乗り出した。

■5万~20万円台の「手の届く国産高級腕時計」

セイコーエプソンが最もこだわったのは、5万~20万円台の「手の届く国産高級腕時計」の商品群に注力したことだ。スイス勢が得意とする数百万円の高価格帯には目もくれず、「工芸品にならない、日常で使える機械式にこだわった」(エプソン販売のマーケティング担当者、男谷倫子氏)

17年6月には、根強い人気のムーンフェイズ搭載モデルを初めて発売した。半年かけて販売する予定だったが、1カ月半で売り切れた。その後も次々と新作を投入し、ファンの拡大につなげていった。

文字盤下部にはムーンフェイズが光る

販売を通じた認知度の向上にも知恵を練る。競合他社が直営店の展開を進めるなか、オリエントスターでは百貨店や専門店でのフェアを重視。19年3月期はフェアの開催数を18年3月期に比べて倍に増やし、様々な場所でまずブランドを知ってもらうことに力を入れている。

競合するシチズンやセイコーとは売上高で3倍ほどの開きがある。将来的には売上高で1千億円以上を目指すが、達成してライバルに伍(ご)するブランドに育つか。2年後のブランド誕生から70年を迎えるなか、捲土(けんど)重来を期す。

(佐伯太朗)

▼1951年に前身のオリエント時計が初代を発売。71年に現在の機械式駆動装置(ムーブメント)の元になる「46系」を開発、搭載した。時計の振動を刻む心臓部「テンプ」の振動数を増やして精度を上げた。70~80年代に海外市場に注力した結果、現在でも国内よりロシアなどでの知名度が高いという。

[日経MJ 2019年9月6日付]

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