黄金色の油、コクに深み 鳥取の牛骨ラーメン
スープをふくむと、香ばしさとまろやかなうまみが広がる――。各地にご当地ラーメンが存在するが、鳥取県中部で根づいてきたのは牛骨ラーメンだ。地元の店は当然のように牛の骨でダシをとってきたが、独自の食文化であることに気づいた地元有志が2009年に「鳥取牛骨ラーメン応麺(めん)団」を結成。「牛骨」をアピールする地域おこしを展開している。
根づいた経緯には諸説ある。応麺団団長を担う三徳山三仏寺の米田良順執事次長(40)によると、県中部は歴史的に牛の飼育が盛んで、鶏ガラより安価に牛骨が手に入る環境が生んだという見方が有力だ。旧満州(現中国東北部)の料理をヒントに戦後の引き揚げ者が考案し、中部で広まったとみられる。
「肝心なのは骨の鮮度」と話すのは1949年創業の琴浦町の香味徳(かみとく)の店主、紙徳武男さん(80)。食肉取扱業者から骨ごと購入し、切り出した様々な部位の骨を割って煮出す。スープは一口すすっただけでじんわりうまみの余韻が残る。
地域で牛骨を使い始めた店(現在は閉店)から学んだ創業者の父親が作った味を受け継いできた。さらに次男が東京・銀座で店を構えるなど次世代へも伝えている。銀座店が監修した牛骨味のカップ麺も発売され、家族で食文化の発信にも貢献している。
倉吉市の人気店の一つが麺屋八兵衛。店主の岩崎健治さん(45)は地元の高校を卒業して運送会社に勤務したが「自分好みの牛骨ラーメンを作りたい」と09年に開業した。大阪のラーメン店で基本を学び、倉吉に戻って試行錯誤を重ねた。飲食店の格付け本「ミシュランガイド京都・大阪+鳥取2019」で、ミシュランの基準を満たした「ミシュランプレート」として掲載され、ファンを広げている。
寸胴で2日間牛骨を煮出すと、ダシの表面に黄金色の油が層をつくる。しょうゆだれと岩塩を合わせたスープに麺を入れ、その油をつぎ足すとコクの深い一杯に仕上がる。
湯梨浜町のレストラン吉華は牛骨スープをベースに様々な味を提供する。地元名物の野花(のきょう)梅を溶かした「塩梅」はほんのりピンク色だ。レモンを搾った「塩レモン」はさわやかで、しょうゆだれをきかせた「ブラック」も香ばしい。刺激を求めるなら猛牛ラーメンを。特別料金で激辛の「マックス」に挑める。社長の吉岡学さん(48)は「ライバル同士が腕を競い、牛骨ラーメンのまちとして盛り上げたい」と話す。
畜産業が盛んだったことが牛骨ラーメンを生んだが、近年、鳥取県が注力する「鳥取和牛」のブランド化も進む。2017年の全国品評会で県の主力種雄牛の子牛が肉質日本一に輝き、県中央家畜市場の和子牛の平均取引価格も高水準が続く。
霜降りの程度を示す指標となるBMSの値で、宮城県の種雄牛「茂福久」、長崎県の「勝乃幸」に次いで、鳥取県畜産試験場が育てた「元花江」が3位、「隆福也」が4位を占める。東京のホテルが鳥取和牛のフェアを開くなど知名度も高まっている。
(鳥取支局長 山本公啓)
[日本経済新聞夕刊2019年9月5日付]
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