自転車こぎなども有効 心臓リハビリで再発防げ
筋トレ施設備える病院も
心筋梗塞など心臓の病気にかかった人が治療後に再発するケースは珍しくない。加齢とともに重い心不全へと進行することもある。そうしたリスクを低下させるケアとして注目されているのが心臓リハビリテーションだ。脳卒中後のリハビリなどと比べなじみが薄いが、専用施設を設けて取り組む医療機関も増えてきた。
東京都文京区の順天堂大学順天堂医院の病棟8階にある「心臓リハビリテーション室」。フロアの中心に歩行トラックが設けられ、トレッドミルや自転車型トレーニングマシン、筋トレ用の器具などが置かれている。フィットネスクラブのような雰囲気だ。
利用しているのは心臓血管のカテーテル治療や心臓手術を終えたばかりの入院患者や、退院後にリハビリテーションを続けている人たち。健康チェックを受けた後、プログラムに従って、ウオーキングや自転車こぎなどの有酸素運動、次いで負荷をかけた筋肉トレーニングをこなしていく。
フロアの一角にある部屋では心肺機能をチェックするための負荷試験や、栄養士による食事指導なども適宜実施されている。
心臓リハビリテーションの主な対象となるのは「急性心筋梗塞」「心臓手術後」「慢性心不全」の3つ。他に「狭心症」や大動脈解離、解離性大動脈瘤など「大血管疾患」など合計7つが公的医療保険の適用対象になっている。退院後でもリハビリ開始後150日までは公的保険が利用できる。
脳卒中など脳・神経系のリハビリでは、マヒした手足を動かすため、モノをつかんで運ぶといった課題を与えて訓練する内容が多い。これに対して心臓リハビリは有酸素運動や筋トレなどで体全体を動かし、代謝や心肺機能を改善することを主な目的としている。
「心臓手術後のリハビリテーションは古くからあったが、近年、運動療法が様々な経路を通じて心疾患の再発防止に有効であることがはっきりしてきた」。同大学の代田浩之・保健医療学部長(循環器内科学特任教授)は、その効能を説明する。
まず挙げられるのが動脈硬化を遅らせる効果だ。悪玉コレステロールといわれるLDLコレステロールが血管壁にたまることで動脈硬化が進行する。そこから発生した血栓で起きる急性心筋梗塞や心筋症を急性冠症候群と呼んでいる。
代田氏らの研究グループは2013~16年に急性冠症候群で入院してカテーテル治療などを施した患者32人を対象に心臓リハビリテーションを実施し、身体活動の量と動脈硬化の程度を表す冠動脈のプラーク量を比較した。一日の平均歩数が7000歩を超えるなど身体活動量の多い患者ほどプラーク量が顕著に減っている傾向が確認された。
運動による効果はほかにもある。「末梢(まっしょう)血管の働きが改善される。筋肉から分泌される物質が循環器系によい影響を与えることも近年報告されている」(代田氏)。高齢化によるフレイル(虚弱)を予防する観点から効果が期待されている。
日本循環器学会の調査によると、カテーテル治療などに対応した主要な病院の大半は心臓リハビリテーションを実施している。ただ本格的な施設・スタッフを備え、通院リハビリにも対応しているところはこのうち約半数にとどまっているという。実施体制の一層の充実が求められている。
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急増する心不全対策にも
心疾患の再発予防との関連で見逃せないのが、高齢化を背景に「心不全」が国内で急増している問題だ。心不全は心筋梗塞のような病名ではなく、心臓のポンプ機能の低下で体内に酸素を十分に送れず、身体に様々な症状を引き起こしている状態のことを指す。
心不全は乱れた生活習慣やストレス、過労、糖尿病などもリスク要因とされるが、心筋梗塞や弁膜症、心肥大、不整脈など様々な心臓疾患がきっかけとなって進行する。「心筋梗塞はたとえ一回でも起こすとやがては心不全になってしまうことが多い」(磯部光章・榊原記念病院院長)という。
心不全は無症状期のステージAから4段階を経て進行する。心筋梗塞の治療を終えた人は心不全のステージBに該当すると考えてよいという。「心臓リハビリテーションによって進行を遅らせることができる」(磯部氏)と心不全の増加に対処する意味からも心臓リハビリの役割に期待している。
(編集委員 吉川和輝)
[日本経済新聞夕刊2019年9月4日付]
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