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ビジネスの現場では考える力が問われる。画像はイメージ=PIXTA

ビジネスの現場では考える力が問われる。画像はイメージ=PIXTA

2つのことがらのうち、一方が原因で、もう一方が結果である「因果関係」があるかどうかを見極めよう――。社会科学の研究者が、データ分析を通じて因果関係を証明する「因果推論」の方法を説く著作が増えてきた。

なぜ、因果関係に注目するのか。中室牧子・津川友介著『「原因と結果」の経済学』(2017年2月、ダイヤモンド社)によると、日常生活の中で「本当に因果関係があるかを考えるトレーニングをしておけば、思い込みや根拠のない通説にとらわれずに正しい判断ができる」。伊藤公一朗氏は『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(17年4月、光文社新書)で、因果関係の見極めはビジネスや政策の現場で実務家にとって重要だと唱える。「私たちは日常的に、社会のしくみや責任のありかを因果の形を通じて理解しているから、因果という説明様式にこだわらざるをえない」。マックス・ウェーバーの方法論を問う『社会科学と因果分析』(19年1月、岩波書店)で、佐藤俊樹氏はこんな見方を示す。

エステル・デュフロほか著『政策評価のための因果関係の見つけ方』(19年7月、石川貴之ほか訳、日本評論社)は、因果推論の中で最強の手法とされる「ランダム化比較試験」(RCT)の手順を示す解説書だ。原書はRCTによる実証研究のバイブルとなっている。監訳者の小林庸平氏は巻末の解説で、政策の効果を推定した結果(エビデンス)に基づく政策形成(EBPM)が決定的に重要と強調したうえで、エビデンスを作る(政策効果を測定する)→エビデンスを伝える(整理して分かりやすい形にまとめる)→エビデンスを使う(政策を決定する)と展開するサイクルの実現を提唱する。

因果推論は万能なのか。研究者が測定するのは、集計データが表す「平均的な人間像」に個々の政策が及ぼす影響であり、根底にある構造を解明できるわけではない。従って、EBPMに多くの人が納得するとは限らず、エビデンスの積み上げに終始する研究の限界を指摘する研究者も少なくない。本家の米国を見ても、トランプ政権がEBPMを実行しているとはとてもいえない。一連の著作は、研究者がエビデンスを「作る」にとどまるならEBPMは画餅に終わりかねない現状も映し出している。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2019年8月31日付]

社会科学と因果分析: ウェーバーの方法論から知の現在へ

著者 : 佐藤 俊樹
出版 : 岩波書店
価格 : 3,024円 (税込み)

政策評価のための因果関係の見つけ方 ランダム化比較試験入門

著者 : エステル・デュフロ, レイチェル・グレナスター, マイケル・クレーマー
出版 : 日本評論社
価格 : 2,484円 (税込み)

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