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電柱地中化・人工の小川…歩きやすい街でシニア元気に

2019/9/2付 日本経済新聞 朝刊

「歩きやすい街」が高齢者を健康にする――。民間の研究機関が全国約30の市町村を抽出して調べたところ、高齢者の健康状態がいい自治体は車に頼らず外出しやすかったり、歩きやすい歩道が整っていたりするなど日常生活で自然と歩く環境が整っている傾向があるという。通り抜けの車が入らない分譲地や、歩道を十分確保した道路整備など、自治体の動きを政府も後押ししている。

愛知県の知多半島北東部にある東浦町で8月中旬、気温32度の暑さの中、食料品が入ったシルバーカーを押しながら女性(82)が川沿いの散歩道をゆっくりと歩いていた。女性は週1~2回、自宅からスーパーまでの約1.5キロを片道40分かけて歩く。「川辺だと暑さも和らぐし、春や秋は景観も楽しめる。ここらの人はよくこの道を歩くんだ」

東西の幅約6キロの東浦町は中央~西部は田畑が広がり、約5万人の町民の多くは町東端から約1キロの範囲に住む。スーパーや銀行などは南北に走る国道沿いに集中しており、住民は東西に走る川沿いのあぜ道など狭い生活道路を歩く。車もほぼ通らず、東浦町保健センターは「自然と高齢者が歩きやすい街ができあがった」という。

約40の大学や研究機関が参加する一般社団法人「日本老年学的評価研究機構」(東京・台東)が全国31市町村を抽出して65歳以上の高齢者の健康状態を調査したところ、東浦町は過去1年に転倒した高齢者が4番目に少なかった。転倒者の割合を年齢・性別などの要因を調整した上で平均値を1とすると、東浦町は0.72。ウオーキングを趣味とする高齢者の割合も3番目に高かった。

同機構代表理事の近藤克則・千葉大教授(予防医学)は「それぞれの自治体の街の構造を詳しく調べると、高齢者が日常生活で歩く環境の自治体が上位に入っている」と指摘する。交通網が発達していて駅までの道のりを歩く習慣があったり、公園や食料品店が徒歩圏内にあるケースなどだ。同機構は近く論文にまとめる予定だ。

政府も健康な高齢者を増やそうと、こうした街づくりを地方に促している。

内閣府は今年1月、先駆的な地方の開発計画を後押しする事業に新潟県見附市が掲げる「歩いて暮らせるまちづくり」を採択した。

目玉の施策が昨春に完成した分譲地「ウエルネスタウンみつけ」。自治体が分譲地の計画を主導するのは珍しい。全域4万5千平方メートルのうち、公園や緑地帯の公共スペースが5割を占める。電柱を地中化して景観も整えた。市都市政策室は「自然と外出し、住民同士の交流が始まるような設計にした」としている。

歩行者の安全を確保するための工夫も多い。分譲地の車道に住民以外の車両が入ってこないように一般道から独立した区画にした。さらに車道を最高速度を時速30キロに制限する区域「ゾーン30」に設定したり、所々ポールを立てて道幅を狭くし、住民にも速度を落とすよう促している。

今回は約20億円の事業費のうち国から約4割の支援を受けた。「全く同じ分譲地を今後も造り続けるのは現実的ではないものの、モデルケースとして今後、地方開発の参考になれば」(都市政策室)と期待する。

市道の拡幅で車、自転車、歩行者の専用道を整備し、人工の小川も造成。歩いて移動する市民が増えた(大阪府高石市)

大阪府高石市も国交省の補助金を得て、市内中心部を通る約3キロの市道「南海中央線」の拡幅工事を進めている。

もともとはセンターラインも歩道もない幅約5メートルの道路だった。工事により道幅は一気に25メートルに拡大し、10メートルを片側1車線の車道に充て、自転車専用道を両側に2メートルずつ、歩道を3.5メートルずつ設ける。それぞれをブロックで仕切って歩行者の安全を確保する。

自転車道と歩道の間に人工の小川も設置。「景観を向上させるほか、子供の遊び場にもなる」(同市スマートウェルネス推進室)という。

全区間の工事終了は2020年度以降だが、効果も出始めている。完成区間などで毎週平日に開催するウオーキングイベントは18年度に計1万4千人が参加。5年前の8倍以上になっているという。

日本老年学的評価研究機構の近藤代表理事は「認知症の予防に効果があるとされる地域社会との交流も街の構造を変えることで促進できる。健康な街づくりの重要度は大きくなっている」としている。

◇  ◇  ◇

■行動データ活用探る

歩きやすい街づくりを進めるため、データを活用する動きもある。

2016年の健康寿命の推定値が政令指定都市でワースト3だった札幌市。20~70代の市民200人に専用のスマートフォンアプリを使ってもらい、同意を得て入手した行動履歴から街を歩く流れを把握する実験を今春から始めている。

都市部では地方に比べて道路整備などはコストがかさむ。このためデータを分析して、新たな遊歩道や休憩所、公共交通の整備などを効率的に進める狙いだ。

東京都千代田区もオフィスが集積する大手町・丸の内・有楽町地区の価値向上を狙い、3地区で勤務する会社員などの健康データの活用を模索している。

行動情報や歩行距離、睡眠時間などのデータを蓄積するアプリのダウンロードを4月に開始した。今後は情報に対価を払う「情報銀行」などを通じてデータをユーザーから取得し、街づくりに活用することを検討している。

(寺岡篤志)

[日本経済新聞朝刊2019年9月2日付]

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