低酸素・VR…進化系フィットネス アラ還男子の挑戦
フィットネスクラブに入会しても、長続きしない人がいる。そんな向きに短時間で楽しみながら体を鍛えられる「進化系」が人気らしい。従来型とどう違うのか、運動不足気味の熟年記者(59)が体験した。
向かった先はハイアルチ三軒茶屋スタジオ(東京・世田谷)。ハイアルチとはハイアルチチュード(高地)の略だ。高地にいるのと同じ低酸素の部屋で運動することで、高地トレーニングと同様の効果が得られるという。大気中の酸素濃度は21%だが、低酸素室は15%と3割ほど低い。
部屋に入ると空気の薄さは感じなかった。自走式のウオーキングマシンで30分歩く。指導員が5分おきに心拍数と血中酸素濃度を測り、速度を指示してくれるので安心だ。記者の場合は時速6キロ。酸素が薄いからか、3分ほどで息が上がり、首のタオルは汗でびっしょり。部屋から出ると酸素濃度が通常に戻ったせいか、頭が少しクラクラした。
指導員の新田幸一さんは「2時間運動したのと同じ効果がある」と話す。直後は疲れを感じなかったが、すぐ眠気に襲われた。思った以上に体力を使ったのかもしれない。
次に訪れたのがシックスパッドステーション代官山(東京・目黒)。最大の特徴は電極が内蔵された「EMSスーツ」を着た筋トレだ。腹筋や胸筋、大腿部など18カ所の筋肉に電気で刺激を与える。
宇宙服に似たEMSスーツはずしりと重い。「今から電気を流します」。体中がピクピクと収縮し始め、自分の意思と無関係に動き出した。誰かに自分の体を支配されているような不思議な感覚だ。
膝を曲げ、両手を広げ、両足を開き、体を左右にひねる。電気の刺激で筋肉が硬くなり、体が思うように動かないところに負荷をかけるので、効果が増している気がする。
バーチャルリアリティー(VR=仮想現実)を使ったクラブも話題を呼ぶ。サイクル&スタジオR渋谷(東京・渋谷)では、縦約3メートル、横12メートルのスクリーンの前で30分間、バイク型のマシンをこぐ。
サイクリングロードを疾走する映像が流れ、上り坂ではギアを重く、下り坂では軽くする。「スタンドアップ!」。急な上り坂に差し掛かるとインストラクターから立ちこぎの指示が飛ぶ。下り坂では「シットダウン」。座って速くこぐよう促される。
10分もすると尻が痛くなり大腿部の筋肉が張る。途中で息苦しくなったが、インストラクターの「あと少しでゴール」の声に励まされ、何とか完走できた。壁や鏡に向かってペダルをこぐだけなら30分も続かなかっただろう。VR映像の効果を実感した。
暗闇の中、トランポリン器具で跳びはねる「ボルトジャンプ」も人気だという。プログラムを導入する店舗の一つ、メガロス日比谷シャンテ(東京・千代田)を訪ねた。
ミラーボールの光が反射し、大音量の音楽が流れる中、跳びながら足を上下左右に開閉する。バランスを崩さないよう踏ん張るため、結構足が疲れる。ただ学生時代に親しんだディスコで踊るような楽しさがあり、あっという間に時間が過ぎた。
4日連続でプログラムを1日1つずつ体験し、体重は78.9キロから78.0キロ、体脂肪率も27%から24%に下がり、効果はあった。マシンだけの従来型は飽きるかもしれないが、短時間で楽しめる進化系ならば長続きする気がした。
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施設・会員とも右肩上がり
専門誌のフィットネスビジネス(クラブビジネスジャパン)によると、フィットネスクラブは施設数、会員数とも増えている。施設数は2014年末時点の4375カ所から18年末に5818カ所、会員数は約419万人から約514万人。4年間で約100万人増えた。フィットネスビジネスの古屋武範編集長は「筋トレマシンだけを配置した小規模なクラブが増えた」とみる。一方、マシンだけでは満足できない客層も着実に増えているという。従来型で飽き足らない人に進化系が応えているようだ。
(高橋敬治)
[NIKKEIプラス1 2019年8月31日付]
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