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時短家事

辻仁成のカジダンへの道 父の料理を自慢できるように

2019/8/27付 日本経済新聞 夕刊

僕が暮らすここフランスの男性たちは、日本の男性よりは率先して家事をする。彼らは料理もするし、買い物にも行けば、時に掃除もする。

学校の行事にはお父さんが大勢参加している。お母さんに負けないほどの参加率である。進学説明会などの重要な会議のときは、むしろお父さんの方が多かったりする。午後の会合でも、どこからともなくお父さんたちが集まってきて、教室を埋めていく。

もちろん、女性の社会進出の割合も日本とは比べものにならないほどに高い。フランスは女性役員の数が欧州企業の中でも先行していて、会社役員の半数近くを女性が占めるという記事を読んだことがある。納税も夫婦合算で2等分しなければならず、男女平等ということでいえば日本よりも進んでいる。そういう国だからこそ、お父さんがPTAの会合に大勢いるのも当たり前なのだ。

共働きの家族が多いので、家事も男女半々が普通だ。自由、平等、博愛の国なのだから、当然と言えるかもしれない。だからか、僕が家事をやっていることに対して息子は違和感を覚えることはない。僕が家事をやっていても隣人はおかしな目で僕を見ることはない。

フランスは共働きの家族が多いので、家事も男女半々が普通だ

僕がシングルファザーをやり始めた頃に、とある日本の新聞の取材を受けたことがあった。記者は女性だったが、「辻さんは女子力高いですね」と言われた。悪気があって言ったのではないが、女性の記者さんが自ら「女子力が高い」という言葉を口にしたことに僕は違和感を覚えた。この感覚では日本の女性の本格的社会進出にはまだ時間がかかるだろうな、と思った。

僕は家事をやるようになったが、自分のことを女子力が高いとは思っていない。単純に人間力が高いオヤジだとは思っている。けれども、もしかすると日本の男性はもっと家庭進出してもいいのじゃないか、と思うことがある。男女平等とかそういうことのためではなく、より等身大の幸せを感じるために。

若いフランス人は必ず自分の父親の料理を自慢する。「ムッシュ辻に負けないくらい、私のパパのスパゲティはおいしいのよ」といった感じ…。その子が自分の父親を誇る姿に僕は大きな幸福感を見つけることができる。自分もそういう父親を目指したい。

そういえば、僕のことは決して褒めない息子だが、一度だけこう口にしたことがあった。「パパの料理は世界で一番おいしいよ。よその家に招かれた時にはじめて気が付くことができたんだ」

家事が僕を幸福にさせた。

辻 仁成(つじ・ひとなり)
1959年生まれ。81年、ロックバンド「エコーズ」を結成。97年「海峡の光」で芥川賞。99年「白仏」の仏語版でフェミナ賞外国小説賞。映画監督としても活動する。パリ在住。

[日本経済新聞夕刊2019年8月27日付]

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